[ 産経新聞フロントページ | 産経新聞インデックス]
芝居見物の神様講座
--トップ表記をめぐる考察--

 演劇専門誌「演劇界」で山川静夫さんが連載している随筆「新・かぶき折々」が楽しみで毎月、愛読している。

 現在発売中の六月号では、「歌舞伎用語の表現・表記」について、山川さんのウンチクがおもしろく解説されていて、ほんとにそうそう、と納得しながら読んでいる。

 要約すると、初心者にとって、歌舞伎用語はわかりにくく不親切だということ。タイトルも本外題(ほんげだい)と呼ばれる正式な題名で書かれている場合もあれば、一部分の上演のときは通称や略称で表記される場合が多い。

 たとえば「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)」は、「弁天娘女男白浪」となり、「弁天小僧」にもなる。

 また、「仮名手本忠臣蔵」の主役は、「由良助」か「由良之助」か。

 そして、もっともよく見かける、役者の「〇代目」と「〇世」は、どう使い分けるのか…などなど。

 どれが正しくてどれが間違いといえる根拠がなく、統一もとれていないから、仕方がないが、書き手側はより親切でわかりやすい表現を心掛けたいと結んでいる。

 同感である。

 わたしが好きな宝塚の世界でも似たような戸惑いがある。

 「トップ男役」か「男役トップ」か、の表記。

 宝塚歌劇団の資料では、男役に関しては単にトップスターと呼ぶし、「トップ娘役」というから、「トップ〇〇」が正解のように思えるが、劇団側にも、「男役トップ」という人もいる。トップの男役なのか、男役の中のトップなのか、微妙な違いがあるように思える。

 さて、山川さんの話。

 NHKの看板アナウンサーだったことにもよるが、歯切れがよくてなによりわかりやすい。歌舞伎は難しいものでなく、理屈ぬきに楽しむものを身上にしながら、役者との対談や芝居そのものの解説を聞いていても、玄人から素人まで納得させる知識にあふれている。

 わたしは文句なしの山川ファンで、芝居全般にわたっての含蓄(がんちく)ある言い回しを手本にしたいと思っている。

 なかでも、歌舞伎についての話題がやはり、一番おもしろい。

 初心者はまず、山川さんの解説を聞いてから歌舞伎座に行けば、それだけで歌舞伎ファンになること請け合いである。

 山川さんは、芝居見物の神様なのだ。 

000605産経新聞東京夕刊




 産経新聞購読お申し込み  産経Web-S お申し込み
産経Webに掲載されている記事・写真の無断転載を禁じます。すべての著作権は産経新聞社に帰属します。(産業経済新聞社・産經・サンケイ)Copyright 2001 The Sankei Shimbun. All rights reserved.