ハプスブルク家が、六月の日本の演劇界でよみがえっている。
「ミツコ−ウィーンの伯爵夫人−」(三十日まで、東京・東銀座の新橋演舞場)、「エリザベート」(八月三十日まで、東京・丸の内の帝国劇場)、宝塚宙組「うたかたの恋」(七月一日まで、関東近県から北海道、東北地方ほか)である。
三作品、いずれもハプスブルク家にかかわる人間たちのドラマを扱っている。
江村洋著「ハプスブルク家」(講談社現代新書)によれば、「西洋史全体の動向において、ローマ教皇庁とならんでただ一つの王朝」が、ハプスブルク家だったという。十三世紀から第一次世界大戦が終結した一九一八年、すなわち二十世紀初頭まで、ほぼ七百年にも及ぶ王朝を、オーストリア、ハンガリーを中心にしたヨーロッパ圏で築いてきた家系である。徳川家三百年なんて、まったくかすんでしまう。
三作品の中では、「ミツコ」だけがドラマ性を異にする。ミツコとは、明治時代にオーストリア=ハンガリー二重帝国の駐日代理公使、ハインリッヒ・クーデンホーフ伯爵に見初められて結婚、何人もの子供をもうけ、死ぬまでウィーンで暮らした日本人女性、クーデンホーフ光子のこと。フランスのゲランの香水「ミツコ」のイメージになったという説で知られる、美しい女性だ。大地真央がなんでそんなにきれいなの、と驚く舞台姿で演じている。その光子の嫁ぎ先、クーデンホーフ家がハプスブルク家のいわば、家老職的家柄。
一方、「エリザベート」はずばり、ハプスブルク家最後の皇帝、フランツ・ヨーゼフの妃。美ぼうの皇后として有名だが、放浪癖があって、放浪先のスイスで暗殺される。なぞに満ちた暗殺の真相と不運な皇后の生涯を、母国のオーストリアでミュージカル化した作品だ。翻訳した東宝版でエリザベートにふんしているのは、一路真輝。一路のために、新曲「夢とうつつの狭間に」が日本版だけに用意されている。
「うたかたの恋」は、宝塚の見本作となった感がある舞台で、エリザベートの息子であるルドルフ皇太子の悲劇を描くもの。現在の公演は、宙組の二代目トップとなった和央ようかのお披露目でもあり、白い軍服姿が絵のように美しい。
三人全員が宝塚(OGと現役)は、偶然か。
000619産経新聞東京夕刊