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カーテンコ−ル講座
--アンコールをめぐる夢うつつの考察--

 舞台終了後に拍手喝さいして、出演者に再登場を促すアンコールは、かつては音楽会や歌手のリサイタルの恒例風景だったが、演劇舞台でも、カーテンコールといってなじみになっている。

 最近は、ミュージカルの上演が増えたこともあって、カーテンコールは日常茶飯事、客席もそれを予想して終演後、幕の上がりが少しでも遅れると、手拍子で催促するようになった。

 本来、観客の側には悲喜劇の夢物語を楽しませてくれた出演者への慰労の意味があり、出演者にとっては、代金を払って芝居見物に来てくれた観客へのお礼のあいさつである。

 が、ミュージカルの場合、歌やダンスが作品上に重要な位置を占めているから、最初から、カーテンコール用に人気ナンバーのリプライズを決めておいたり、まったく新しい歌やダンスのシーンを見せたりする。歌手がリサイタルで、あらかじめアンコール用の歌を準備しておくのと同じこと。

 宝塚歌劇がいわば、カーテンコ−ルをもっとも効果的に取り入れている代表だ。

 芝居が終わっても、必ずフィナーレがついていて、それまでの舞台上の役割とは違った服装や雰囲気で歌ったり踊ったりするショー場面を見せる。

 宝塚の場合、そのシーンが一番、拍手が大きかったりすることがある。

 一種の安心感である。

 善人悪人演じ合った俳優同士が、手をつないだりほほ笑みを交わし合ったりして、再登場してくれると客席はほっとする。悲劇や深刻なテーマの作品のときは、なおさらだ。

 たとえば、現在、東京・丸の内の帝国劇場で上演中の「エリザベート」では、エリザベート役の一路真輝とゾフィー皇太后役の初風諄が、物語上では嫁しゅうとめとして犬猿の仲。憎しみ、ののしり合う関係だが、舞台を終えたカーテンコールでは、仲良く登場して客席に笑顔であいさつする。

 歌舞伎もそうだが、一般舞台のように、もし芝居だけの世界を見せて幕が下りてしまうと、余韻が激し過ぎ、気分がふさぐという人が出る。

 もちろん、逆に余韻を感じていたいがために、芝居の後の幕は二度と上がらないほうがいいと思う人もいる。

 アンコールのシステムはしかし、大多数の観客には、夢と現実の違いを知らせてくれる意義をもっているのである。

000731産経新聞東京夕刊




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