宝塚歌劇出身者だけの舞台が、二月から四月にかけて、東京と大阪で上演される。「心中・恋の大和路」(二月十七−二十一日、池袋の東京芸術劇場)と「桜祭り 狸御殿」(四月一−十日=新宿コマ劇場、十四−二十六日=梅田コマ劇場)だ。
「心中−」は、文楽や歌舞伎で知られる近松門左衛門作「冥途の飛脚」の宝塚バージョン。
昭和五十四年、当時、星組のトップスターだった瀬戸内美八の忠兵衛、遥くららの梅川で初演され、評判となった。
もちろん、すべて現役のタカラジェンヌが演じた舞台で、その後、瀬戸内が姿晴香の梅川で再演し、剣幸や汐風幸も忠兵衛に挑むなど、繰り返し再演を重ねている宝塚歌劇のヒット舞台でもある。
今回の特色は、現在女優として活躍中の瀬戸内が、OGとして主演することと、初演、再演で瀬戸内とともに出演していた峰さを理が八右衛門役で顔を出すこと。
やはり今、女優の峰は瀬戸内の後、星組のトップになった。情感あふれる歌唱力には定評があるスターである。
じつは、この公演、平成十一年に兵庫県宝塚市の宝塚バウホールで今回とほぼ、同じキャストで上演され、満員札止めとなった。正確にいうと、現役の専科生が二人出演しているが、男役娘役、かつてファンを熱狂させた元タカラジェンヌたちが再現する宝塚名作舞台であることに違いはない。
「−狸御殿」は、今年元旦に新装オープンした東京宝塚劇場完成記念としての特別上演。こちらも昔、宝塚で上演された邦画の人気作品だ。鳳蘭以下、歴代トップスターが何人も登場する豪華けんらんな舞台だが、改めてふれる。
宝塚OGだけを集めたこうした舞台、これから増えてきそうだ。
わたし個人としては、懐かしさがいっぱいでうれしい半面、複雑な気分でもある。
宝塚歌劇の最大の魅力は「別れの美学」であり、一度サヨナラといって見送った男役娘役のピカピカキラキラ姿は、もう二度と再び、現実には目にすることができない蜃気楼(しんきろう)のような再現不可能な美。
だから、瀬戸内の忠兵衛は、現役時代のそれとは異なるだろう。そこをどう、見るか。OGたちが、女優として演じ直す男役の芸。怖いような、早く見たいような…。
010205産経新聞東京夕刊