先日、宝塚歌劇団から発表された組み替え異動で、久しぶりに若手の抜てきがあった。
トップ人事については、男役は研十(入団十年目)過ぎ、娘役は研五、六あたりからが最近の傾向だった。
が、今年八月、東京宝塚劇場で披露される月組公演で、次期トップスター、紫吹淳の相手役として現在、星組の研三娘役の映美くらら(えみ・くらら)が決まったのだ。
娘役の歴史でいえば、各組にいるトップスターの相手役を、通称ながら娘役トップと言い習わすようになった『ベルサイユのばら』初演の昭和四十九年前後あたりまでさかのぼってみても、研二の黒木瞳、同じ研三ながら映美より二カ月早くトップになった神奈美帆に次いで、史上三番目のスピード記録となる。平成では、もっとも早い時期でのトップ就任である。
あらゆる面で男役世界である宝塚にあって、娘役の地位向上と人気の確立を訴え続けてきたつもりのわたしとしては、うれしいニュース。しかも、早くから期待をかけていたスターだけに、なおさらだ。
女性だけの舞台空間で、男役を一段と光らせる役割を担うのが華麗な娘役の存在であるというのが、わたしの持論。
それゆえ娘役を過剰に取り上げてきて、演劇記者時代、宝塚の男役スターからはけっこう、皮肉をいわれ続けた。
しかし、歴代、男役の名舞台には必ず、その横に名娘役との思い出のシーンが浮かんでくる。
ゴールデンコンビと謳われたスターたちも何組かいた。そのためにも、娘役は新進時代の抜てきが効果的である。早い時期に男役に添って初々しい花を咲かせ、やがてつややかに熟成して男役を膨らませる。
映美は初舞台の時から、いかにも娘役らしいかれんさで目がついた。偉大な娘役スター、遥くららと同じ名前なのも気にいった。
二年目の『美麗猫』で、朝澄けいと一場面もらったことで劇団の期待度を予感した。
確信は、『花吹雪 恋吹雪』の茶々のしっかりした芝居ぶり。待望の娘役が現れたとそのころからあちこちで吹聴した。
先月の『ベルサイユのばら』では、娘役スターの登竜門、小公女役を可愛く務めた。
これから、どんな成長を遂げるかは映美次第だが、遥ならぬ「くららの夢」をもう一度、の気持ち。娘役びいきにとって、期待は膨らむばかりである。
010529産経新聞東京夕刊