真夏の福岡へ行って来た。博多座で公演中の宝塚歌劇雪組の舞台を見るためである。博多座がオープンした平成11年から、8月公演は宝塚となっていて、星組、昨年の月組、そして今回と3年連続の博多座通いとなった。
雪組公演は、昨年6月から9月にかけ、宝塚と東京で上演された芝居の『凱旋門』と今年の2−6月、やはり東西で上演されたレビュー『パッサージュ』。2作品ともかなり装いを変えていて、東京で見た時よりぐんと引き締まった。同時期に宝塚バウホールで、雪組新進グループの公演があり、組全体の舞台ではないぶん、各場がスリム化し、出演者のパワーが前面に出た。下級生までセリフや見せ場を与えられたことが、新鮮な温度を客席に伝えている。
レビューでは、「硝子の空の記憶」の振りが、以前の流麗から熱く鋭い動きに変化していた。轟悠と月影瞳が交錯するダンスシーンは、さながら汗とともに稲妻が飛び散るよう。
収穫は、幕開けに白い天使の衣装で踊る天勢いづるのシャープなオープニング・ダンスである。研五(入団5年目)の優等生で、本公演、新人公演とそれなりの役柄に恵まれてきたが、小柄のイメージで損をしていた。それが、ダイナミックに堂々と踊りまくり、舞台を狭く見せた。天勢は『凱旋門』でも、ちょっとおかしな亡命者、ローゼンフェルト役で、重いストーリーのなか、一点の緩みシーンをうまく演じ、客席から和みの笑いをとっていた。
『凱旋門』は、人数と劇場空間に合わせたコンパクトな仕上がりに変わっていた。わたしはこの博多座版が一番、気に入った。各場をそれぞれ少しずつ収縮させたのが好結果となり、フィナーレがらみの「パリ解放の日」が消えたことで、恋人のジョアンを失ったラヴィックが凱旋門を振り返るシーンで幕が降り、愛のかなしさと美しさを強く印象づけた。
いつもながら、宝塚は上演を重ねつつ熟成する。今回ほど、轟と月影が出会いの場で飲むフランス特産のブランデー、カルヴァドスがうまそうに見えたことはない。
わたしもその夜、博多の街に出て、カウンター・バーでカルヴァドスを注文した。リンゴの味がするかなり強い酒。雪組に乾杯!と心で叫んで2杯飲んだ。
010814東京夕刊