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男子採用講座
小林一三の構想の考察

東京の新宿コマ劇場では今、松平健主演『不死鳥よ波濤を越えて』(植田紳爾作、水谷幹夫演出、28日まで)を上演中だが、これがもう、びっくりする舞台である。

われわれはよく、歴史物語を語る時、「もし、あの時…だったら、時代はきっと変わっていただろう」などと、記録として残っているエピソードの逆を考えて楽しむクセがある。歴史に「IF」が許されたらということで、クレオパトラの鼻が曲がっていたらとか、信長が本能寺で討たれていなかったらとか、いろいろ想像しては、その後の展開を空想する。

『不死鳥よ−』の舞台の驚きは、その「もし」を物語上だけに止まらず、構成上でも見せていることだ。

話は、歌舞伎でもお馴染(なじ)みの平家の勇将、平知盛(松平)が壇ノ浦の合戦で敗れ、大イカリを抱えて海へ飛び込んだものの、宋国の水軍の将に助けられ、中国のローランで生きていた!という仕立て。

そこまでは、演劇、映画、小説がしばしば使う手法だが、配役から演出法が、宝塚歌劇に生き写しなのだ。逆にいえば、現在の歌劇の作品に、男優をキャスティングしたらこうなるだろうと思える舞台。登場人物の心情は歌とダンスで表現され、群舞やカゲコーラス、美しい幻想シーン、松平と相手役の杜けあきとの歌と踊りの甘いデュエット・シーンも、随所に用意されている。

実は、この舞台、本来の宝塚歌劇団の姿だったのではないか、とわたしは観劇中、いくども納得した。作者の植田は、宝塚の生みの親、小林一三が目指した国民劇を復活するために書いたと語っているが、昭和54年に市川猿之助が歌舞伎として初演した後、平成12年に松平主演版となり、男女出演の歌劇もどきの形になった。

植田は現歌劇団理事長だから、男優まじりの歌劇を意図したものではないだろうが、一三翁は昔、歌劇団に男子採用を検討したことがある。

が、婦女子から「男子禁制の乙女の団体に狼のごとき、いやらしい汚らわしい男など断じて許さぬ」といった猛烈な反対にあってしまった。

わたしはなんとも複雑な気持ちに襲われるが『不死鳥よ−』の舞台、そんなひど過ぎる反対に合わなければ、男女一緒に出演できる宝塚歌劇団公演と銘打たれていたかもしれない。

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