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「さよなら皆様」講座
--内海重典をめぐる考察--

 ♪さよなら/みなさま/さよなら/御機嫌よう…

 この歌詞とメロディーを、宝塚ファンで知らない人はいない。宝塚歌劇の公演終了後に、劇場内で必ず流れる歌。

 「すみれの花咲く頃」と並んで、ヅカファンの心に深く浸透している名曲である。

 昭和十六年、内海重典作、演出で上演された「宝塚かぐや姫」の中で、かぐや姫にふんした小夜福子が天上に帰っていくシーンでうたった「さよなら皆様」。現在までうたい継がれている、その歌を作詞した内海さんが一日、亡くなった。八十三歳だった。

 戦前戦後をまたいで、数々の宝塚作品を発表した内海さん。「南の哀愁」や「嵐が丘」「ラ・グラナダ」といった話題作を残した演出家であり、傑出したエピソードに彩られた伝説の〈宝塚人〉でもあった。ハイカラ趣味とアイデア、そして人情に厚い親分肌の性格から生まれる逸話は、なんど聞いても心ときめくものばかり。

 ワイヤレスマイクを歌劇で初使用したのが内海さん。昭和二十六年に渡米して見た舞台で、歌手がスタンドマイクを手でもち、動かしながらうたっていた姿からヒントを得た。

 内海さんは、マイクをスタンドからはずしてうたわせた。が、「コードが目ざわり」という新聞批評がきっかけで電器メーカーと相談、無線マイクが開発された。

 いまや、舞台の幻想シーンには欠かせない、ドライアイスで白煙を出すアイデアも、そう。まだ小さかった長男が、アイスクリームについていたドライアイスをコップの水に入れて遊んでいるのを見て思いついた。「あのとき、特許をとっておけば、大金持ちになったかもしれない」と、大笑いした内海さんの顔が浮かぶ。

 スター誕生へのかかわりも、数知れず。歌が苦手で周囲が二の足を踏んだにもかかわらず、そのスター性に目をつけ、入団まもない新珠三千代や有馬稲子を抜てきしたり、極めつきは鳳蘭の採用秘話。試験を受けに来た鳳に「ダンス経験は?」と聞き、「なしです。入学してから習います」と平然とこたえた度胸に満点を入れた。

 一月二十三日、愛宝会のパーティーで内海さんにお会いした。あいさつにいくと、「宝塚をよろしくね」と大きな声でいわれた。

 さよなら/内海さん/さよなら…

990308産経新聞東京夕刊




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