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新人公演講座
--人気の永続性の秘密をめぐる考察--

 宝塚歌劇星組「ウエストサイド物語」の新人公演を見た。

 現在、東京・有楽町のTAKARAZUKA1000days劇場では星組が公演中で、その期間内に一回だけ行われる入団七年目までの新人タカラジェンヌたちによる舞台である。

 商業演劇の世界では今、宝塚だけにある制度だ。プロ野球でいえば、いわば二軍戦のようなもの。未来のスターたちが、ここぞとばかり猛ハッスルする舞台は熱気とさわやかな緊張感にあふれていて、いつも客席は超満員、宝塚人気の永続性の秘密がここにあることを感じさせる。

 主演級に抜てきされているスターは本公演でも目立つ役柄を与えられている場合が多いから、いってみれば役付けが上がった芝居ぶりの変化を楽しめるのも新人公演の特徴である。

 本公演で小結や前頭上位の立場だった者が、ここでは三役や横綱となり、土俵入りまで披露する。そのさまが、先輩が務める本役とそっくりだったり、少し毛色が変わっていたりしながらも、鮮度と思いきりの見栄えとなって、客席を沸かせるのだ。

 今回、トニーを演じたのは朝澄けい。新人公演初主役ながら、心のこもった歌唱で、いちずな愛の激しさと悲しさをしっかり表現していた。マリアの秋園美緒は、最後の新人公演出演で三度目のヒロイン役。星組の歌姫として歌唱シーンの常連だから、トニーと交わす「トゥナイト」の二重唱の場の美しさが、胸に染みた。

 リフの真飛聖、アニタの雪路歌帆も無難な歌唱、ベルナルドの水瀬あおのいかにもいまどきの突っ張り高校生ふうセリフ回しもおもしろく、「ウエスト−」の五役は、本公演とは異質の雰囲気で楽しめた。

 一方、ロザリアの美椰エリカとコンスエロの妃里梨江は、本公演の方が重い役のせいか、やや熱さが乏しかった。

 朝澄と秋園のコンビは初めてだが、二人、対照の趣味を持っている。朝澄がお寺巡りで、秋園が賛美歌を歌うこと。

 少々、こじつけ的にはなるが、お釈迦様とイエス様のご加護があったのかもしれない。本役の自在さあふれる芝居ぶりにはまだ遠いが、先輩が脱いできた青い果実の香りを十分発散させて、リトル・トニー&マリアを立派に演じていたからだ。

990531産経新聞東京夕刊




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