「悲しいかな、今の宝塚についてはまったく素人なんですよ」と語っていた阪急電鉄代表取締役副会長の菅井基裕さん。
じつは、戦前戦後の少しの期間、宝塚歌劇を観劇していた。
「中学時代、姉に連れられて見ていたんですね。小夜福子、越路吹雪、淡島千景、乙羽信子などの舞台を見ました。そのころ、宝塚南口に住んでおりまして、学校の行き帰りに南悠子とよくすれ違いました。あんなきれいな人がいるのかなぁ、と当時、思っていましたよ」
レビュー黄金時代のとき。菅井さんの宝塚改革論の原点は、その思い出に潜んでいるようだ。
「あの当時は、男性ファンがいっぱいいました。現在の歌劇にもまた、男性をひきつける方策があるのではと考えているのです」
それにはスターの育成が一番。
「トップが退団宣言してからのほうが観客数が向上するのはなぜか?」
スターのキャラクターが支柱になっていると菅井さんは分析した。
「真矢みきや天海祐希はすごいファン層をもっていた。そんなスターを育てるには、宝塚の外でもアピールするようにしなければいけない。東宝グループの劇場やよその劇団にも出演させるのも一方法だと思っています」
人気スターを生み出すには、その基盤も重要だ。
「そう、(宝塚)音楽学校の受験制度や今の生徒のタレント契約制にも手をつけたい」
ファン層の拡大を図る案はすでに実行に移されている。
五組制にして地方公演を増やしたのも、そう。
「音楽学校の受験生は関西と首都圏に集中しているんですよ。ファンとスターの素材を発掘するためにも、未開拓の地方はまだ、あります。そこへ歌劇を行かせるんです」
宝塚の底辺を広げる作業。
「専科制度も改革したいですね。昔は、歌にしてもダンスにしてもすごいな、という芸人がいました。今の人たちは、宇多田ヒカルだとか耳がこえている。単なる宝塚調だけでは受け入れられないのではないか」
もちろん、「宝塚なんだというトーンは受け継がなければいけません。ファンに違和感をもたれるのはダメですから」と、菅井さん、念を押した。「よくなる環境整備はやる。劇団の諸君にはクリエートの作業に専心してほしいということです」と、締めくくった。
990719産経新聞東京夕刊