今年六月に開場したばかりの博多座へ行ってきた。
博多座は、九州の演劇文化の振興をうたって、地元経済界や松竹、東宝など日本を代表する演劇興行会社、それに行政の公民合体組織が運営にあたる劇場である。
地下四階、地上十三階の重厚な鉄筋コンクリート造りの複合施設ビルの一角にあって、劇場部分は一階から三階までがエントランスロビー、四階が客席一階、五、六階が二、三階席になる。総客席数千四百九十席。ゆったりしたスペースがなによりの特徴で、いすに座って足を堂々と組める。隣席の人が目の前を通るときも、腰を浮かしたり足元を気にしたりする心配がない。
交通の便にもめぐまれていて、福岡有数の繁華街である中洲の川端にあり、博多駅から三分、福岡空港からも市営地下鉄で八分。駅から直結で劇場に入れる。周辺には飲食店やホテルが林立、夜ともなれば海からの涼しい風に吹かれながら、中洲名物の屋台でいっぱい、芝居の余韻に酔える。こんな素晴らしい環境でこんなすごい劇場。不況どこ吹く風、わが国の裕福さには驚かされるとともに、はたして今後、興行上成り立っていくのか、そのほうが心配になる。
福岡は、日本の近代演劇の祖ともいうべき川上音二郎の生誕地でもあり、演劇文化に対する関心がことのほか強い地域といわれている。が、東京ばかりでなく地方に続々生まれている劇場やホールの数に比例して、大劇場芝居のソフト不足は深刻な問題だ。人気役者が限られているのも、演目決定に支障をきたしている。
博多座はその点、なんでもありの総花ラインアップが売り物。六月のこけら落としが歌舞伎で、以降、開場記念興行として七月のミュージカル「ローマの休日」が終わって、現在八月は、宝塚歌劇星組が公演中。続いて、九月には歌手の北島三郎の特別公演、十月新派、十一月は松平健特別公演と、彩りもさまざまだ。
さて、やっと出掛けていった博多座の真夏の舞台には、なんと雪が降っていた。宝塚の名作「我が愛は山の彼方に」の再々演。主演の稔幸が、セットの山上から大見得(みえ)きり愛を叫ぶシーンにハラハラと降る。ほんのつかの間、白い紙の雪を涼しく楽しんだ。
990816産経新聞東京夕刊