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プログラム講座
--筋金入りのやぼをめぐる考察--

 「週刊文春」誌に〈立腹/抱腹〉という連載物のページがあって、買ったときの楽しみなコーナーとして読んでいる。

 著名人による日常茶飯の怒りや笑いの体験記で、新旧世代のせめぎ合いが現代ただ今の時代を浮き彫りにする。旧世代に属するわたしなど、いまどきの若者の振る舞いを嘆く寄稿者につい同調して、そうだそうだと立腹どころか手をたたいて抱腹してしまう。

 が、近ごろ、どうにも抱腹になど至らない立腹ばかりで盛り上がる話題がある。宝塚歌劇を見に行ったときに、あちこちから聞こえてくる歌劇の公演プログラムに対する不満の声だ。

 宝塚は今春から、プログラムの定価をそれまでの六百円から千円に値上げした。四−五月の宝塚大劇場(兵庫県宝塚市)雪組公演からで、東京でも六月末まで上演されていた星組「ウエストサイド物語」までは旧スタイルだったが、七月からの雪組「ノバ・ボサ・ノバ」「再会」から本拠地と同じ、千円の新版になった。

 ファンの怒りは、その新版の体裁のこと。まるっきり昔と変わってしまった。A4判のサイズに変化はないが、

 (1)表紙からトップスターの写真が消え、デザインだけになった。しかもTAKARAZUKA/YUKIGUMIなどとローマ字体

 (2)そのスタイルによって従来のひと目でわかった何組の何年の何公演かが判然としなくなった

 (3)上演中の芝居のあらすじがなくなった。宝塚のプログラムは台本付きが名物だったのである

 (4)オールカラー印刷になったのはいいとしても、スターのポーズ写真があふれ過ぎていることと全出演者の顔写真が扮装(ふんそう)とポートレートと二度も掲載されている不思議

 (5)横組みは仕方ないにしても、デザイン優先で抜きや乗せ文字が多く、読みづらい

 …などなど、一挙に四百円も値上げした「改良」のはずの部分が「改悪」としか思えないのだ。

 懐古趣味でいうのではないが、「宝塚らしさ」が昔のプログラムにはあった。いまどきの編集者は、スターの顔がどーんと出て、いかにも乙女チックな宝塚というイメージの「やぼ」を避けたかったのだろう。

 宝塚の「やぼ」はしかし、八十五年、筋金入りの「やぼ」である。そこに伝統の味と人気があることを忘れないでほしい。

990830産経新聞東京夕刊




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