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演出家講座
--新時代の「らしさ」をめぐる考察--

 宝塚ファンの必読書である月刊「歌劇」の九月号に、若手演出家座談会「21世紀の若き旗手に問う」というスペシャル企画ページがあって、おもしろく読んだ。

 宝塚の舞台は、現在まで八十五年の間、座付き作者と呼ばれる宝塚歌劇団所属の演出家によってほぼ、作品が提供されてきた。海外ミュージカルも原作物も、演出だけは座付き作者が担当するのが原則である。

 だから、宝塚人気に陰りが出てきたのでは…とささやかれ始めた昨今では、とりわけ演出家陣へのファンの風当たりは強い。人気の中心である男役スターを生かした作品が少なくなってきた懸念が大きいからだ。スター主義の作品作りに変わりはないはずなのにそう感じられるのは、スター自体の魅力が薄れているのか、構成上の問題か、難しいところだ。

 宝塚観劇歴三十五年余のわたしでは、大層なことはいえないが、ここ十数年来、作品の傾向が散文から韻文、すなわち小説より詩歌の趣に押され気味になってきた気がする。悲恋の物語世界をぐいぐい生きて、かなしいまでにかっこいい決め方で終わった男役のスタイルが、日常語をしゃべり、ときに優し過ぎ、あるいは極端にニヒルになり、役割をもらった男役が主役というより、全体としてのイメージで勝負といった、見た者の感性次第で、似合った似合わないが測られるようになってきた。

 若手作者の作品が、とくにその形態を踏む場合が多く、年寄りファンには不安の種だったが、この座談会を読んで安心というより、興味をもった。

 昭和六十三年入団の木村信司から平成四年の藤井大介、六年組の荻田浩一、植田景子、齋藤吉正、八年の大野拓史、九年の児玉明子と七人全員が、「宝塚らしさ」を当然のように作品づくりの基本に置いていることだ。

 座付きなら当たり前といえばそれまでだが、彼らがすでに発表している作品が「宝塚らしさ」であったかどうかで、賛否両論沸き上がっているところに、わたしは刺激的な期待感を寄せる。

 十二月にデビューする大野を除く全員の作品はすでに見た。不満もあるが感動も大きい。

 ただ、昔人間が思う「らしさ」と若手が抱く「らしさ」のはざまに、もしかしたら宝塚新時代のノバ(新星)が輝く予感がしてならない。

991004産経新聞東京夕刊




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