女優、大浦みずきが書いたエッセー集「と・て・ち・て・た」(千二百円+税、アスペクト)を読んだ。
大浦は、元宝塚のトップスターで、退団するちょっと前の平成三年七月に、生い立ちから宝塚時代の思い出をつづった自叙伝ふうエッセー「夢*宝塚」(小学館)を出版していて、その小気味よい文章とエピソードの楽しさに感心した記憶がある。
じつに八年ぶりに読んだ「本」は、小気味よさが一段と増したうえに、天性ともいえる話題選びがさえ渡り、ソフトでしゃれっ気たっぷりな表現力も倍加したように思える。一芸に秀でた者は二芸にも三芸にも秀でるというのは、やはり本当らしい。
大浦は宝塚時代、名ダンサーとして知られていたが、ダンスシーンではいつも当然のように感動させられていたので、「心中・恋の大和路」でとても似合っているとは思えなかったちょんまげ姿でうたった歌のうまさや、「ベルサイユのばら・フェルゼン編」に主演して、王妃アントワネットを慕ってうたった「愛の面影」の朗々とした歌唱場面や堂々とした芝居ぶりのほうが、鮮烈によみがえってしまう。踊りだけでなく、歌でも芝居でも秀でていたのである。
もっとも、大浦のお父さんは作家の阪田寛夫さんだから、文才も血筋だろう。おもしろく読ませるということに関して、努力というよりはごく自然にペンが走ってしまっている感じを受ける。
ことに今回の「本」は、自らの人生を振り返った「夢−」と違って、宝塚退団後、女優に転進して現在に至る日常のあれこれにふれているぶん、ぐんとリラックスした大浦自身の本音が見え隠れしている。
「シーソー」や「リトル・ミー」など、大浦が出演した舞台のエピソードが中心になるのは当然だが、なかでも、「蜘蛛女のキス」やテナルディエの妻を演じた「レ・ミゼラブル」を語ったところが笑える。
「大浦式痩身法」というところでは、大浦自身が「絶対にまねしないように」といっているが、運動してやせるダイエットなら、健康な女性にはむしろ、おすすめではないか。読みながら、舞台人生って楽しそうと感じさせてくれる好著なのに、東京人・大浦のテレ隠しか、なんで、こんなタイトルになったのだろう?
991101産経新聞東京夕刊