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鳳蘭&麻実れい講座
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衝撃的笑劇と笑撃的衝撃についての考察--

 宝塚歌劇のトップスターとしてそれぞれ一時代を築き、現在女優で活躍中の鳳蘭と麻実れいが今、対照的な舞台に主演、双方、衝撃的な芝居に挑んでいる。どちらも本邦初演の翻訳劇だ。

 鳳は、ベン・トラヴァース作、喜志哲雄訳、木村光一演出『昨日までのベッド』(25日まで、東京・新宿の紀伊国屋サザンシアター)で、2度の結婚経験はあるが、初婚の初夜の恐怖がトラウマとなり、以後、セックスレスで独り身となっているアルマという中年女性の役。そのアルマが、ベッドは別々を条件に60歳目前の男、ヴィクターと再々婚するが、セックス積極派のいとこやヴィクターの息子のガールフレンドの奔放な性体験を聞くうちに興味を抱き、ヴィクターをベッドに誘う。そして体験後、アルマはセックス大好き妻に変身していた。

 全編、セックス言葉のはんらん。が、すべてセリフと役者の所作に託されている芝居で、新鮮な刺激を受ける。鳳が性を嫌悪する前半のかんしゃく持ちから後半の明るく潤いに満ちた女性に変わる様子を、なんともいえぬつやっぽさで見せる。カラッとおおらかな鳳だからこそ、不思議でいじらしい女性の性の一面を、衝撃的笑劇にして見せた。

 麻実は、実在したフランスの大女優、サラ・ベルナールの晩年の一コマを描いたジョン・マレル作、吉原豊司訳、宮田慶子演出『サラ』(30日まで、池袋のサンシャイン劇場)。77歳のサラ(麻実)が、海辺の別荘で年老いた秘書のピトウ(金田龍之介)に回想録の口述筆記をさせている。はかどらぬ作業に苛立つサラとのんびり、マイペースのピトウ。天才と凡人の老後のさまといった二人だけの芝居が、アンティークな美術と夕陽の加減が絶妙な照明に溶け込んで素晴らしい。

 麻実は、この芝居の前にサラの別荘があったフランスのベル島に行き、太陽と海と風だけの島で過ごしたサラの気持ちを感じてきた。「客席を海と思い、太陽に語り掛けるように演じたい」と言っていたが、太陽に負けまいとするサラの気概が伝わる。「太陽に打ちのめされた年老いたトカゲ」というサラ自身を形容するセリフをにやっと語る時の麻実の凄みと美しさ。2俳優の熱気で客席は沸きっぱなしで、こちらは喜劇ではないが、笑劇的衝撃作だ。

010925@東京夕刊




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