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星組   『ベルサイユのばら2001--オスカルとアンドレ編--』劇評    
010416産経新聞夕刊 小田島雄志(文京女子短大教授)




 プロローグで銀橋(エプロンステージ)に出てきた稔幸=写真左=が、香寿たつき=同右=と軽く抱きあうとき、膝をゆるめて相手より姿勢を低くした。この『ベルサイユのばら--オスカルとアンドレ編』(植田紳爾脚本・演出、谷正純演出)では、オスカルが女であることを強調するのだな、と思った。

 初演のころ、巷は激動の時代であり、オスカルなど主役たちは、フランスという国家を、変革の時代を、背負って生きていた。いまはそのような季節ではない。そのせいか、舞台での力点は女と男の愛に移されたようである。

 稔幸のオスカルは、凛々しい男装のかげに女のやさしさを秘めていた。なにかやるたびに「女のくせに」とののしられ、それに耐えに耐えた力がアンドレへの愛になって噴き出したように見えた。

 香寿たつきのアンドレは、ひたむきな愛で涙を誘った。オスカルの乳母の孫としての立場で、幼いころからの友情が恋に変わったのを押しかくし、いのちを捨てても彼女を守ろうとする姿は痛切だった。

 星奈優里のマリー・アントワネットは、無邪気なかわいい王妃がフェルゼンとの愛と別れを経験することによって成長する過程を、くっきり描いた。そのフェルゼンを演じた安蘭けい、オスカルへの愛をいさぎよくあきらめて身を引くジェローデルの夢輝のあ、義賊黒い騎士ベルナールの九城彬、小公子の朝澄けい、オスカルに盾突いたあと心服するアランの真飛聖など、生きのいい若手が舞台に色とりどりの風を吹き送っていた。

 『ベルばら』のおもしろさは、『ハムレット』や『忠臣蔵』のように、主役を演じる人の個性によってさまざまな音色をひびかせ、脇役もそれぞれのドラマをはらんでいるところにあるのだろう。

 のる(稔幸の愛称)のサヨナラ公演にふさわしいすてきな舞台だったね、と言うと、Yが苦しい駄ジャレで答えた、「そりゃあ、『のるサイナラのばら』だからな」。

 五月六日まで、東京・日比谷の東京宝塚劇場で上演中。


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