淀川長治の銀幕旅行
「クライング・ゲーム」
この記事は産経新聞93年05月11日の夕刊に掲載されました。
題名は“つらいゲーム”。6月末か7月公開。紹介はまだ早い。けれどもあまりの面白さに一刻も早くご紹介…と思ったところ輸入会社はこの映画のストーリィいっさいおしゃべり禁止と出た。クソ、生意気な。けれどもこれぞ言わぬが花のこの映画の罠(わな)。

祭りの夜、女が誘って男が相手になったその瞬間、むんずと掴(つか)まれ妙な小屋に連れこまれたが、このかっぷくのいい黒人男、頭からスッポリ黒頭巾(ずきん)をかぶせられ、何がなにやらわからぬままに一夜は明けて、見張りの白人一人がこの黒人を連れて庭に出た。

「ねぇこの頭巾とってよ」と頼む。返事なし。しかし口のところまでめくってくれた。首から口のところまで。「あぁ空気がうめぇ」。男は喜び、ポケットから女の写真を取り出させ、「俺の女よ、べっぴんだろ」と笑う。「ションベンしてぇ」と言い出して庭に立って見張りのその白人に自分のをひき出させた。両手をしばられている。小便の音。やがて「あぁホッとしたぜ。すまねぇがおれのをしまってくれねぇか」。そこで白人番人、この黒人のモノをズボンにしまってやってから、いよいよ話は進む。実はこのアジトの連中、自分の仲間の一人が警察に捕らえられたがため、罠を張ってこの黒人を捕らえ、身代わりの交換と決めたのだった。

ここまではしゃべってもよかろう。ここからが実に悲しく、こわく、哀れ、きびしくなって、この脚本がオスカー(アカデミー最優秀オリジナル脚本賞)を取っちまったことがわかる。けれど実はこの黒人と白人、この2人を見つめているだけでこの映画の匂い、この映画のセクシィ、この映画の悲しさが、わかるはずである。

監督・脚本がニール・ジョーダン。「狼の血族」がある。出演は黒人が「バード」のフォレスト・ウィテカー。白人が「狼の血族」のスティーブン・レイ。それよりも黒人の愛人のナイトクラブの女、この俳優の名を申したいが、しゃべれないから我慢しよう。とにかく、実にまことに、いい映画だよ。  (映画評論家)



淀川長治

クライング・ゲーム

製作総指揮
ニック・パウエル

製作
スティーブン・ウーリー

監督・脚本
ニール・ジョーダン

撮影
イアン・ウィルソン

出演
フォレスト・ウィテカー
スティーブン・レイ
エイドリアン・ダンバー
ミランダ・リチャードソン
ジェイ・デビッドソン

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