「許されざる者」待ちかねたウエスタン

この記事は産経新聞93年03月30日の夕刊に掲載されました。

アメリカ映画カラー、１９９２年作、２時間１１分。近ごろの映画、やたらと長いが、これは飽きさせまい。

ジョン・ヒューストン監督、バート・ランカスター主演の同名映画（１９６０年）あるも全然違う。これはクリント・イーストウッドの製作監督主演。久しぶりのバッチリ・ウエスタン。近ごろインディアンを悪党野蛮にすることをひかえ、オクラホマ土地タダとり競争開拓映画（『遥かなる大地へ』）、またはインディアンを友とした『ダンス・ウィズ・ウルブズ』あるも、この二作、ウエスタンのファンにはやや満足なるまい。

かくてここに登場のこれぞまこと本物ウエスタン。この手のファンは春から縁起がいいぞと跳び上がったか。

クリントふんする初老近き西部男。ヤクザから手を洗い、３年まえ女房に死なれた今はカタギ通して、幼き２人の子を男手ひとつで育てながら豚の家畜業。ところが、このところ豚の病気。そこへ一人の若き男、走り来り。町で娼婦がヤクザに顔切られ、怒った彼女ら金を集めて、このカタキをとれば賞金１０００ドル。若き西部の男、これぞおめえさんの出る番よと。

ここでクリント、ついに立ち上がり、１１年も手にせぬガンを握った。女房の墓にも参り射撃テスト。ところがこれがことごとくダメ。老いた目も腕も悪くなったるか。まさに待ってましたのストーリーよ。ここにマカロニでさんざん鍛えた彼のショー精神、なんと、笑えば満点の善人ジーン・ハックマンを非情残酷悪党にして、いよいよ立ち上がる。

ウエスタン・ファンの若人は血わき胸おどり、大人はしばしゴルフの手を止め映画館へ。まさにまったく、このクリントのいいカッコ。女を助け不正に立ち向かう。ただしこの「手」は古く、サイレント初期のウィリアム・ファーナムからウィリアム・Ｓ・ハートを主演にさんざん使った「手」でありながら、それを今にいただくあたりの文句なしのクリントの賢さと嬉しさ。これが面白くなけりゃゼニ返すのこの構え。ちと出来すぎたみたい。 　(映画評論家)