「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」
この記事は産経新聞94年08月30日の夕刊に掲載されました。
見てびっくりすることはたしかである。ブロードウェイの一夜の、その舞台のミュージカルにたんまり酔った感じのこのアニメ。アメリカ近ごろ下り坂でがっくりのところ、アメリカ芸術、マンハッタン芸術、ニューヨーク芸術を見せたこの秀作。
ディズニーの動画スタッフには昔からグロテスク組がいた。ディズニーがいつも可愛く美しいオハナシばかりを作ることに嫌気がさしていた仲間。それはディズニー最初のシリーシンフォニー短編「がいこつの踊り」(一九二九)に、ディズニー自身が考えたグロテスクな人間の骨の踊り。これのほかディズニー・アニメはこの趣味をストップした。
それを今度の完ぺき美術でティム・バートン製作・原案でやりとげた。いうならばアメリカのニューヨーカー誌型のグロ・ユーモア。アメリカがかかる美術人形アニメを作ったことに乾杯したい。
ストーリーは、ハロウィン(お化け祭り)をクリスマスにやってやろう、サンタはサンディ・クロウズという名にしようとか、とにかくオバケ総動員。しかし、言うならばあの「アダムス・ファミリー」のタッチでもって、ここに登場の人形たちの動きのすばらしさ、それはリズム、音感、あらゆる「動き」と「静まり」の呼吸に加え、そのグロテスク美術、あえてここでは美術と呼びたいそのひとりびとりのオバケ演技はすさまじいばかり。これは今年のアメリカ映画最大のお楽しみであり、バレエ・ファンはこのオバケの動きにためいきをもらされるであろう。
監督(ヘンリー・セリック)、製作(バートンとデニーズ・ディ・ノヴィ)はじめ総勢18名に加え、“声”“歌”“話の声”これら約15名、軽くアニメ人形とはもはや言えぬ芸術スタッフの協力である。
1993年・1時間16分。
これはバレエのギャラプレミアを見にゆく豪華気分で見にゆかれるとよい。アニメに少々ばかり飽きてきた人も、ここでまたもアニメの動きに興奮されるに違いない。それは日本の文楽人形のあの手、あの首、あのからだの動きの美しさに見とれるように。
(映画評論家)