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淀川長治の銀幕旅行
「I SHOT ANDY WARHOL」
この記事は産経新聞96年12月3日の夕刊に掲載されました。
私は今年のベスト女優に「ファーゴ」の妊娠ポリスを演じた個性の強くて柔らかな主演女優を挙げたが、惜しや今の今見た「私がアンディ・ウォーホルを撃った」の主役女優、リリ・テイラーに“今年の主演女優”を贈るべきだった。少し張り切り演技だが、この実在したソラナス本人を目に染み込ませる演技で見せた。

最近ほどアメリカ映画が落ち込んだことはなかった。スピルバーグが名作「激突!」(1971年)から急変。金もうけ一点張りの鬼になって以来、アメリカのプロデューサーは右にならえですべてがスピルバーグの無精ヒゲにひれ伏した。

かかる堕落時代にアンディ銃撃事件映画は、この間の「ミセス・パーカー」(95年)と並んで良きアメリカ、アメリカだってシャープさ、この意気を見せようとする。主役はリリ・テイラー。あまり聞いたことのない女優だが、「ミセス・パーカー」でエドナ・ファーバーを演じていたのでクソ生意気な女優とバカにしていたところ、今度は本賞演技だ。彼女でこのアンディ銃撃映画は生きた。

アメリカのポップ・アートの、特にマリリン・モンローのポスターで有名なアンディ。映画はこの人物の周り、この人物の生きていたアメリカ、この時代のアメリカのニューウェイブをつかもうとする。デカダンスよりも金属型のソフィスティケーション。

アンディを演じたジャレッド・ハリスはリチャード・ハリスの息子だった。いやな親父のいやな息子と言いたい、そのそっくり。

貧乏作家で男のクソ生意気さと闘ってアンディ銃撃。精神刑務所3年。1988年に52歳で病死したヴァレリー・ソラナスの狂気とこの時代のアメリカの本当のアメリカが、「ミセス・パーカー」以上に厳しく描けた成功作。脚本と監督のメアリー・ハロンは“女の悲劇”を“女の乾いた涙”でドライに描き切った。最近注目の力作だ。トーキー初期、ハリウッドで作れなかった東部エルストリーの秀作をここにうれしく思い出す。 (映画評論家)

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故淀川長治さん

平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。

I SHOT ANDY WARHOL

監督
メアリー・ハロン

製作
トム・ケイリン
クリスティン・ヴァション

製作総指揮
リンゼイ・ロウ
アンソニー・ウォール

脚本
メアリー・ハロン
ダニエル・ミナハン

音楽
ジョン・ケイル

音楽監修
ランドール・ポスター

撮影
エレン・キュラス

編集
キース・リーマー

出演
リリ・テイラー
ジャレッド・ハリス
スティーブン・ドーフ
ロテール・ブリュトー
マーサ・プリンプトン
ドノバン・リーチ
クーニー・ウェルシュ
マイケル・インペリオリ
ココ・マクファーソン


リリ・テイラー(ヴァレリー・ソラナス)主な出演作品
ミスティック・ピザ
(88)
7月4日に生まれて
(89)
ショート・カッツ
(93)
プレタポルテ
(94)
ミセス・パーカー
(95)


ジャレッド・ハリス(アンディ・ウォーホル)主な出演作品
スモーク
(95)
ブルー・イン・ザ・フェイス
(95)
デッドマン
(95)