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淀川長治の銀幕旅行
「エマ」イギリスのエレガント ここに吸い込みたまえ
この記事は産経新聞97年3月11日の夕刊に掲載されました。
42歳で独身で死んだイギリスの女流作家ジェーン・オースティンの代表小説「エマ」(1816年発刊)の映画化。この作家の「分別と多感」(1811)、「高慢と偏見」(1813)も映画化されている。それはともにアメリカのMGMの映画だったが、この「エマ」は1996年のイギリス映画2時間2分。色彩が美術画のごとく美しい。

19世紀イギリス南部ハイベリー、この地の上流社会の娘エマがお嬢さんごのみで友人たちを縁結びする。映画は余すことなくイギリスのこの時代の上流社会をこの目この心に染み込ませる。監督ダグラス・マクグラスはウディ・アレン映画の脚本にも協力したニューヨーカー誌のエッセー執筆家。

この映画、女の香り、女のうれしさ、女の夢、それがあふれているのはジェーン・オースティン自身のあこがれに違いない。エミリー・ブロンテが男を求めて鬼と化したごとき「嵐が丘」を書いたのと同じく、イギリスの牧師の娘がフランス貴族の影響を受け絹刺しゅうに仕上げた花のごとき作。女ならではの“女の映画”。

かわいいエマ、もう結婚してもいいエマ、この彼女が“あの人とこの人”と縁結びのキューピッドを気取っているこの映画は、男女のエレガントが“愛”と“恋”の錦を織り成しながら恋の熱をさます冷風にも吹き付けられる。

 男の“心”、女の“心”、その秘密をエマが知り、わが身を責める。女の観客はこの作に酔うであろう。男の観客はアクビするであろう。そして男自身の無感覚に気付いて舌打ちするであろう。グウィネス・パルトロウ、ジェレミー・ノーサム、それに「トレインスポッティング」のユアン・マクレガー、グレタ・スカッキ、ポリー・ウォーカーと、この配役は地味ながら、イギリスのこの時代の富豪屋敷、そこでのダンスパーティー、この時代の衣装。

さながらイギリスの美術アルバムに見とれてその一頁一頁をめくるがごとき楽しみ。この映画から今はもはやホコリだらけのジェーン・オースティンの本を取り出した人はもうけもの。必読のお薦め。

 (映画評論家)



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故淀川長治さん

平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。

エマ

監督・脚本
ダグラス・マクグラス

原作
ジェーン・オースティン

製作総指揮
ボブ・ウェインステイン
ハーベイ・ウェインステイン
ドナ・ジグリオッティ

製作
スティーブン・ハフト
パトリック・カサベッティ

撮影
イアン・ウィルソン

編集
レスリー・ウォーカー

衣装
ルース・メイヤーズ

音楽
レイチェル・ポートマン

出演
グウィネス・パルトロウ
ジェレミー・ノーサム
ユアン・マクレガー
グレタ・スカッキ
ジェレミー・ノーサム
ソフィー・トンプソン
フィリダ・ロウ
ジェームス・コスモ
エドワード・ウッダール
ポリー・ウォーカー
アラン・カミング