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淀川長治の銀幕旅行
「虹をつかむ男」山田監督の汗びっしょりの新爆弾
この記事は産経新聞97年01月07日の夕刊に掲載されました。
 山田監督の汗でびしょ濡れ映画。

 四国の田舎のみすぼらしい映画館オデオン座をつぶすまいと頑張る西田敏行。東京から飛び出してきた若者の吉岡秀隆。映写技師の田中邦衛。西田敏行があこがれる田中裕子。もうこれでストーリー(山田洋次)がわかるところが困ったが、松竹のマークと寅さんの幽霊が染み込んで、新スタートの新鮮さがない。もっと“白”が“赤”になるとか、“黒”が“白”になるとか、バサリと新しさを望んだこちらがヤボテンか。

 しかしこれは山田監督の才能でこそここに生まれた山田芸術と開き直りたい。

 映画館の話ゆえこの映画、劇中に外国映画の思い出シーンが続々と出てくる。これは日本映画史上初めてのことだ。西田が「かくも長き不在」を話し出すところ、これが寅さんスタイル。これはもっとやり方がなかったものか。

 それにしても山田監督、あの長い間の寅さんからかくも早くこれとはさぞつらかろう。一年二年と本当は練り直す時間がほしいんじゃないか。しかし山田作品がドル箱ゆえもあろうが、山田監督はいかにも人がいい。いやご本人が、それじゃあお楽しみをお見せしやしょう、と開き直ったか。

 そこでこの映画、映画館主これがすごい映画ファンというわけで何本かの外国の名画シーンが画面いっぱいズラリ次々現れて、これは日本映画かつてなきビックリ。しかしここで観客はそれらの名画シーンに思わず思いをはせて“虹(にじ)”を忘れてしまいはせぬか。

 俳優すべてえたりかしこしで飲み込み演技でうまい。けれど山田監督のこの汗びっしょり、その汗浴びての西田敏行もさぞつらかろう、さぞうれしかろうが、これじゃまだ田舎の館主でない。寅さんだ。西田は精いっぱいうまいがつらいところ。第一、彼の衣服、その衣服あのネクタイどうもやりすぎ。「雨に唄えば」で踊らすところももっとヘタクソじゃないとおかしくない。 それよりラストで何だか新しい若いのが出てきた。上島竜兵。これが敏行そっくり。ここがうれしい。次回に期待をはらませる第一作。



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故淀川長治さん

平成2年から10年まで産経新聞に掲載された連載の再録です。

虹をつかむ男

製作:中川滋弘

監督:山田洋次

原作:山田洋次

脚本
山田洋次、朝間義隆

撮影:長沼六男

音楽:山本直純

出演
西田敏行、吉岡秀隆
田中邦衛、田中裕子
倍賞千恵子、前田吟
下條正巳、柄本明
永瀬正敏、すまけい
鶴田忍、松金よね子
神戸浩、柳沢慎吾
三崎千恵子、上島竜兵
宮下順子、佐藤仁美
佐藤蛾次郎