晴読雨読
容疑者Xの献身  東野圭吾  文藝春秋 1,680円
容疑者Xの献身 古今作家たちは、さまざまな“愚かな男”を生みだし、愚かさゆえの哀切を描いた。東野圭吾はこの直木賞受賞作品で、石神という新たな“愚かな男”をこの世に送り出し、僕たちをほろりとさせてくれる。

石神は高校の数学教師。さえない風ぼうだが、事件解決にたびたび力を貸してきた物理学者、湯川と大学の同窓生であり、湯川もその数学の才能には一目置く存在だった。事件は石神の住むアパートの隣室で起こる。母娘による前夫殺害。うろたえる母娘に石神が協力を申し出る…。

個人的な話になるが、東野作品は「卒業 雪月花殺人ゲーム」を読んだきりだった。もう20年近く前の話だが、比較的淡泊な語り口の作家だなという勝手な印象をもっていた。この直木賞受賞作品では、その語り口が、この“純愛”物語に心地よい抑制をもたらし、ラストに爆発する感情までの適切な導火線になっている。

数学を媒介にしているからか、小川洋子「博士の愛した数式」を思い出してしまったのは、いささかピントはずれかもしれないが、ミステリーなのに、内包しているこの静けさは案外共通しているのではないか。

模倣犯
晴読雨読(せいどく・うどく)は、ENAK編集部員が読んだ本を新旧問わず、気ままに紹介します。書評というより読書日記みたいなもの、でしょうか***晴れた日は田を耕し、雨の日は家で読書をする。そんな悠々自適な生活を意味する中国の故事成語「晴耕雨読」。あこがれるけど、現実はそうもいかない。でも、ちょっとした時間を見つけて本を開く幸せもいいもの。晴れても降っても…。 だから「晴読雨読」。

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