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「いかに死ぬか」=「どう生きるか」
映画「象の背中」原作、秋元康に聞く 
    東京朝刊 by 聞き手 戸津井康之
小説「象の背中」は48歳の男が突然、死を宣告される物語。秋元康氏はその48歳でこの小説を書いた。アイドルグループ“おニャン子クラブ”を生んだ人気番組「夕やけニャンニャン」のプロデュースなど放送界のヒットメーカーとして、また売れっ子作詞家として活躍してきたが、「僕自身が本当に読みたいと思う小説を書いた」と振り返る。現在51歳。「いかに死ぬかと考えることは、実はどう生きるかを考えるに等しい」と語る氏に小説へ込めた思い、映画化への期待を聞いた。

−−なぜ、初の新聞連載小説のテーマに余命半年を選んだのでしょう
秋元 13年前に父を肝臓がんで亡くし、死というものを意識し始めた数年後、僕をかわいがってくれた叔父が死んだ。4年前には親しい放送作家の後輩が43歳の若さで亡くなり、人が死ぬということを身近に感じた。そのころ新聞連載の話があり、「いま最も自分が関心のあるテーマで書こう」と決めたんです。

−−タイトル「象の背中」の意味とは?
秋元 象は死期を知ると一頭だけ群れを離れ、死に場所を探すといわれています。人にはそんなことはできないな、と。できたとしても最後に群れの方を振り返るのではないか。仲間に背中を見てほしいのではないか。そんな意味をこめました。

−−主人公は一切の延命治療を拒否します。彼にそう選択させた理由とは
秋元 父には告知しなかったが、叔父は告知され、僕は病室でいろんな話を聞かせてもらった。もし自分ならどちらがよかっただろうと考えた。

後輩の放送作家は肺がんと白血病を告知され、放射線治療や骨髄移植の手術を受けたが、数年間、闘病生活が続いた。ある時、彼が「もう疲れた」とつぶやいたんです。病気ではなく治療に疲れたのではないかと思う。これは生き方として本末転倒じゃないかと疑問を持った。身近に死と接する中で、延命しない生き方もあると強く思った。どちらが良いかはわからないけど、人生は長さではないと痛感させられた。

−−主人公は人生の全盛期といえる48歳で告知される。その意味とは
秋元 40歳になる前は誰もが70歳より20歳の方が長生きできると考える。でも、40歳を過ぎると死ぬ確率は同じになる。もちろんイメージですが。昔は「人生50年」だから、僕の人生は終わっていてもおかしくないですよね(笑い)。

−−「延命治療はしない」と決意した幸弘の余命半年の過ごし方、心の葛藤(かっとう)はまるでドキュメントのように展開していきます
秋元 幸弘の最愛の娘、はるかは高校のチアリーダー。僕にも6歳の娘がいてバレエを習っています。毎年発表会がありますが、幸弘が、もうはるかのチアリーディング姿を見られない、と悲観する場面は、自分に重ねています。「来年も娘のバレエの晴れ姿を見ることができるだろうか?」と。娘が持つ父の記憶という意味でも、僕がいま生きていること自体が勝負だと切実に考え書いていた。いい小説は1個の嘘(うそ)と99個の事実で作られると言いますが、象の背中では余命半年という嘘を1つついたので、後はできるだけリアルな人間の姿を描きたかった。

−−幸弘は妻でなく、息子に告知しますね
秋元 主人公と長男の関係には、父と僕の関係、そして、もし僕に息子がいたらという願望、その両方を込めました。父に対して、こんな息子でありたかった。こんな息子がほしかったと。

−−幸弘はとてもいい夫、父である一方で愛人も出てきますが
秋元 女性読者には反感が多い(笑い)。でも僕はファンタジーを書いたつもり。世の父親は妻子にいい顔を見せる半面、どこかで嫌な顔も見せているはず。家庭を顧みないとか酒好きとか、「世の父親なんてろくなもんじゃない」と思われる部分を、小説では『愛人』という設定で描いた。

−−映画化への期待は
秋元 死を考えることで、生きることの大切さや人への思いやりを問い直すきっかけにしてほしい。父や夫、家族や知人について思いやってほしい。映画化がそんなムーブメントになれば…と期待を込めています。

>>■「象の背中」映画製作発表 今井美樹、20年ぶり



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記事関連情報
【プロフィル】秋元康
あきもと・やすし 高校時代から放送作家として活躍し、テレビの人気音楽番組「ザ・ベストテン」などを構成。作詞家として美空ひばりの「川の流れのように」などのヒット曲を生む。映画「着信アリ」シリーズ3部作で企画・原作を担当。一昨年4月、京都造形芸術大教授に就任し、今年4月から同大副学長。

秋元康著「象の背中」(扶桑社) 定価1575円(税込み)










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