米アカデミー賞助演女優賞こそ逃したものの、映画「バベル」で海外でも高く評価された菊地凛子。「バベル」では聴覚障害の女子高校生を演じたが、手話などを教えた専門家は「嫌な顔ひとつせず、できるまで何度も練習を繰り返した」と口をそろえる。地道な努力をいとわない心の強さが菊地を一躍スターダムに押し上げた。
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菊地凛子(AP) |
「(菊地は)はっきりいって不器用だった」。手話を指導した手話コーディネーターの南瑠霞(るるか)さんは振り返った後、こう続けた。
「何よりすごかったのは、やる気で不器用を克服したことです」
菊地はオーディション期間中から手話を学んだが、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督は当初聴覚障害者の起用を考えていたこともあり、要求は厳しかった。器用にこなせない菊地。南さんはできるまで練習を繰り返させたが、「何度練習をやり直しても嫌な顔ひとつせず従ってくれた」。
何事も妥協しない菊地だったが、撮影に参加していた聴覚障害者とはいつも手話で「疲れたわ」と会話するなど気さくな一面ものぞかせたという。
経験のないバレーボールにも挑戦した。指導したのは、バレーボールの元米国代表でタレントのヨーコ・ゼッターランドさん。「菊地さんのサーブのシーンについて、監督から『凛子の腕がちぎれてもいいから何とかしろ』と言われました」
サーブの特訓は2週間続いた。菊地の右腕はひじのあたりから手首まで青く腫れ上がったが、「それでも泣き言ひとつ言わず、監督の要求に応えてくれた」。
オーディションも2004年秋から約1年間、ほぼ月1回のペースで行われるハードさだった。菊地の父親役だった役所広司も「オーディションが1年近くも続いたら普通はあきらめますよ。でも弱音を吐かず役を勝ち取った。見上げた役者根性です」と感心する。
昨年末にインタビューした際、菊地はハリウッドについてこう言い切った。「映画の街っていうくらいで、そんなに偉いのって思いますよね」。演技に対する真摯(しんし)な姿勢と反骨精神。菊地の魅力はそこにあるのだろう。