リアリティーの追求にハリウッドの底力

映画「キングダム／見えざる敵」テロとの闘いリアルに

2007/10/12　産経新聞　 　 東京朝刊　by　岡田敏一

サウジアラビアで１９９６年、実際に起きた大規模な自爆テロを題材にした「キングダム／見えざる敵」（ピーター・バーグ監督、１３日公開）は、単なる娯楽大作とは一線を画すシリアスな内容と政治的なメッセージが混在する問題作。ＦＢＩ（米連邦捜査局）の捜査官役のオスカー俳優、ジェイミー・フォックスと米人気アクション女優、ジェニファー・ガーナーの激しいアクションも見どころだ。

ワシントンのＦＢＩの事務所で働くフルーリー（フォックス）は、息子の小学校の父母参観日に出席中、呼び出される。サウジアラビアの石油会社の外国人居住区で死者約１００人、負傷者約２００人という一般人が対象の大規模な自爆テロが発生したからだ。

ＣＮＮやＢＢＣのニュース映像のような緊迫した戦闘場面が見どころの「キングダム／見えざる敵」

同僚も命を落としたことを知り、法医学調査官メイズ（ガーナー）らとともに精鋭４人でサウジに向かう。犯行は国際テロ組織アルカーイダのメンバーでサウジを拠点に活動する人物らしい。

フルーリーは自分たち４人の入国に難色を示すサウジ政府を恫喝（どうかつ）。サウジの国家警察官（アシュラフ・バルフム）の同行付きで５日間という条件で捜査を開始するが…。

血しぶきが飛び散る冒頭のテロの場面や、テロリストとの壮絶な銃撃戦など、生々しい描写はＣＮＮやＢＢＣのニュース映像のよう。こうしたリアリティーの追求ぶりにハリウッドの底力が見える。カーチェイスの撮影でガーナーが「車中で宙づりにされ、車がぐるぐる横転して、頭に血が上って…。その繰り返しには参ったわ」と嘆くほど。

筋立ても良いし、見せ場も多い佳作。ただ、「米中枢同時テロ以降、物事の善悪を簡単に割り切る作品が目立つ」（米業界筋）という指摘がそのまま当てはまる。複雑な中東問題を、「テロと戦うブッシュ政権」という構図だけで描くのにはやはり限界がある。

英紙フィナンシャル・タイムズは今春「世界の石油利権は欧米諸国からサウジやベネズエラ、イランといった反・非米的な国々に今後移る」との予測記事を掲載した。ひねくれ者の記者は「だから結末でサウジにゴマをすったのか？」などとかんぐってしまった…。

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