||ありがとう
びっくりした。オーディションで優勝してから6年。優勝したときもそうだったけれど、今回も驚いた。

東里が振り返る。「仲間由紀恵主演ドラマの主題歌に決まったよ」。スタッフがサラッと言ってのけた。
昨年11月に出したシングル曲が今年1月11日から放送が始まったドラマ「エラいところに嫁いでしまった!」(テレビ朝日系)の主題歌に選ばれた。
オーディションの優勝で2人の人生は変わった。2003年に「変わらぬ『青』」という歌でデビュー。大ヒットはまだ出していないが、着実にファンの輪を広げてきた。4人組ロックバンド、ケツメイシのボーカル、RYOJIもシンパのひとり。コンサートを見て2人を気に入ったRYOJIは、06年「唄の島」というシングルをプロデュースしてくれた。
「拝啓○○さん」は、そのRYOJIが作詞作曲そしてプロデュースを担当した2作目。2人の希望でレゲエのリズムを採用。「あなたにありがとう」と繰り返すのが印象的だ。
石垣がいう。
「2人でうたいはじめてから6年。この間、いろいろな人の力を借りたから、ここまでこれました。聴いてるくれる人、しかってくれる人、支えてくれる人。そのおかげでうたうことに集中できている。その都度思いを込めて『ありがとうございます』って言ってきましたが、あまり口にすると軽く受け取られてしまう。でも、ほんとうに感謝の気持ちがある。それをどうしても伝えたくて。どうにか歌にこめて伝えたかった」

「拝啓○○さん」は、そんな2人の思いから生まれた。
「孤独のときもだれかが見ていてくれるからね。自分たちの歌が、だれかのそういう支えのひとつになれればいい」と東里は願っている。
孤独のときにもだれかが見ていてくれる。たとえば専門学校の廊下でうたっていた2人を講師が見ていてくれたから、今がある。
「だれにっていいきれないほど、大勢の人に感謝しています。だから、『拝啓○○さん』という題名になりました。○○のところに聴く人がそれぞれ感謝したい人の名前を入れてください」と2人は口をそろえる。
そして2人は夢を語る。
「やなわらばーの音楽はやなわらばーにしかできない、といわれるようになりたい。年末に『今年のアーティスト』を振り返ったときに毎年、選ばれるようになりたい」と石垣がいえば「そうなりたいねえ」と東里が相づちを打つ。
そのために新しいに挑戦をし続けるつもりだ。「拝啓○○さん」でレゲエのリズムを取り入れたのもそのひとつ。三線の入らない曲だって作りたい。沖縄ブームに便乗しているわけではないという自負がある。

「しまんちゅなので沖縄らしさは抜けないでしょうけど、そういう自分たちがやったからこういう音楽になりました、というものになればいい」と東里。石垣が後を受ける。「やなわらばーの音楽の核は、2人の声のハーモニーにあります。だからどんな楽器を使っているかではない。2人のハーモニーはだれにも負けない。そこを大切にしたい」
2人のハーモニーがだれにも負けない響きになるには、「心がひとつにならないとだめ」と石垣はいうが、性格が正反対の者同士の組み合わせは案外うまくいっている。
「この人はきちょうめんで、いわれたことはその日のうちにやらないと気が済まない。私はおおざっぱであしたできることはあしたでいい」と東里は笑う。
「友達っていうより姉妹みたい」と石垣。東里がこれを受けていう。「夫婦だな。それもさめた夫婦。相手の存在はと聞かれたら『空気みたい』と答えるような」
2人の笑い声がハーモニーになって響き渡った。