−−すると、なにがきっかけで歌うようになったのですか?
他人に楽曲を提供する際、「仮歌(かりうた)」といって説明のための歌を録音する必要があるんです。それで自分で歌っていたのですが、それを聴いた人が「けっこう、歌がうまいんだね」といってくれて。自分で歌うのもいいかもしれないと考えるようになりました。新しい世界を見るようで楽しかったです。曲ができたら早く「仮歌」を録音したくて仕方なくなりました。
−−非常に印象的な歌詞が多いのですが、歌詞のほうは以前から?
いいえ、実は日記も書いたことがなくて…。11年に自分でつくった歌を自分で歌おうと思ったときに初めて書き始めたんです。私にとって歌を作ることは歌詞をうたうためなので、歌詞から作り始めます。まず、言葉ありき。具体的には、あることがらついてメモしたノートを見ながらピアノに向かい、歌に仕上げます。メモは、歌詞と呼ぶにはあまりにも言葉が整理されていない。そんな文章です。
−−Coccoから松田聖子まで、何人かの歌手に作品を提供されていて、いわゆる職業作家になる選択肢もあったわけですが
量産できないので職業作家になるのは無理だと思いました。これまで提供した楽曲もそんなに多くないんですよ。たしかに、当初はバンドの一員としてスポットライトのあたる人の後ろにいたわけで、「ああやって照明を浴びる人と自分とでは感覚が違うのだろうな」と思っていましたが、いざやってみたら…もう、バックに戻るのはイヤですね! 自由だと思うんです。他人のかいた旋律を演奏するのではない。このほうが自由だと。
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−−ライブは、ピアノの弾き語りが中心だそうですが、舞台にピアノ1台と自分だけだと怖くありませんか?
怖いけれど、自由です。ふつうに他人と接して会話をするよりも、さまざまなことをいってもいいんだという自由さ、安心感があります。それに私、客席に向かって語りかけるのもきらいじゃないんですよ。
ば、悲しい歌が多いですね
いままで書いた歌だけをみれば、確かに悲しい歌が多い。そもそも楽しさのあまり歌を作るのではなく、やりきれない感情をはき出したくて歌をつくることのほうが多いですから。
−−歌をつくることで何をはき出すのですか?
悲しみだったり、怒りだったり、いたたまれなさだったり。でも、(「うつせみソナタ」収録の)「祭りばやし」「前山にて」などは、そういった感情よりも、美しいもの、いいなと思えるものを言葉にしてみたくて歌にした。そうやってできた歌もあります。ただ、なんの感情も抱いていなければ、美しいものを見ても、ただそこに美しいものがあるというだけ。美しさがより色濃くなったり、美しい景色の中で何かを感じるには、やはりそこになんらかの自分の気持ちがなくては…。
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