専科 伊織直加
涙のENDLESS LOVE これからもまっすぐに
パーティー会場に現れた伊織直加
パーティー会場に現れた伊織直加
千秋楽公演に引き続き、伊織−−おっと、このページには伊織ファンしかたどり着いていないと思うので、以下、直ちゃんと呼ばせてもらいましょう−−を筆頭に計4人の退団者を軸とした「サヨナラショー」が行われた。何曲目だったか、銀橋を渡りきった際、2階席を見上げた直ちゃんの口元が「ありがとう」と動くのを見た。

万感の思いで迎えたただろう締めくくりの「ENDLESS LOVE」の主題歌の場面について直ちゃんは「もう、あのときから涙が止まらなかった」と振り返った。この歌は、ライオネル・リッチーの「エンドレス・ラブ」から大いに影響を受けた歌だと思うが、その包容力ある展開はいかにも直ちゃん好み。この歌が始まると客席で一斉にペンライトが振られた。

ショーが終わると、退団者本人によるあいさつ。しんがりに大階段を下りてきた直ちゃんは「ついに旅立ちのときがきました」と語り出した。

「この15年はとても楽しく、私はまっすぐに突き進んできました。ただ映画好きだった女の子だった私がみなさまの愛や仲間たちの支えによって、ここまで育てていただきました。心より感謝申し上げます。宙組のみんなも本当に温かく、この専科の私を送り出してくれました」

ここで、声を詰まらせてしまった。客席のあちらこちらですすり泣きが起こった。

「ほんとうに、自分がこんなに泣き虫だとは思わなかった」と、本人もびっくりしながらこの場面を振り返るが、同じ言葉であいさつを続けた。

「すいません、こんなに泣き虫だとは自分でも思いませんでした。これからもまっすぐに生きていきたい。ここで出会ったみなさまのご恩は忘れません。本当にありがとうございました」

語り終えると客席に向かって深々とお辞儀をした。

「本当はもっと言葉を用意していました。伝えたいことはもっとあった」と明かす。実際、男役が退団あいさつで泣いてしまった例は少ないかもしれないが、言葉とはまた別のものが客席に確かに伝わったのも事実だろう。

カーテンコールは3回。

  

その後、劇場近くの会場に場所を移し、後援者やファンクラブを対象にした感謝のパーティーが開かれた。会場に現れたときの直ちゃんは涙もすっかり乾き、終始笑顔だった。

さっきまでいっしょに舞台を踏んでいた宙組トップスター、和央ようか、同娘役トップ、花總まりをはじめとした大勢の宙組の組子たち、あるいはすでに退団している同期らが駆けつけてはにぎやかに、あるいはしんみりと直ちゃんに言葉を贈った。

「はたから見ていると退団(と、それにまつわる行事)は、とても大変なことで、たとえば結婚式のよう。私は退団しない」。和央はそんなことをいって、始終会場の笑いを誘ったが、おどけた言葉の中に、“戦友”直ちゃんを見送る心情が大いに感じられたものだ。「傭兵ピエール」の中のふたりの役柄そのままだった。

ショーの「満天星大夜總会」の作演出を担当した齋藤吉正が贈った言葉も印象的だった。齋藤はこういった。

「だれもが状況に順応することをよしとしている社会で、伊織直加は自らの美学にこだわり、“一代限りの伊織直加”を築き上げた」

なるほど直ちゃんはトップスターにはなれなかったが、独自の男役の美学を追求し、貫いた、「まれなスター」(齋藤)だったのだろう。

  

人の出会いの「なぜ?」は、だれがいくら考えても答えを出せない人生の不思議です。だから、大切にしなくてはなりません。

「伊織直加のコレ聴きま専科」は編集局文化部が企画しながらENAKが取材を担当するという不規則な連載でした(それもあくまで新聞掲載を主体に)。これもまた人生の不思議な出会いには違いありません。ENAKの「SUMiRE STYLE」は、トップスター中心という原則は曲げません。が、産経新聞の連載に協力をしてくれた人については継続して報道する。これもまたENAKにとって大切な原則です。

「ありがたいことに、ファンは私の“トランク”に載ったまま、これからもついてきてくれるっていってくれた」と、直ちゃんは破顔しながら話していました。宝塚ファンはひいきが退団すれば、新しいひいきを歌劇団の中にみつける。これが、基本。だから直ちゃんのファンたちも新しいひいきのタカラジェンヌをみつけて歌劇団をさらにもり立てていくことのほうが自然。だけど、同時にずっと直ちゃんの“トランク”の中にい続けてほしい。

なぜかって、人の出会いの「なぜ?」は、だれがいくら考えても答えを出せない人生の不思議。だから、大切にしなくてはなりません。


パーティー会場入り口
パーティー会場入り口
SUMiRE DATA
6月23日(月)
SUMiRE LINX
伊織直加退団
「傭兵ピエール」始まる
「傭兵ピエール」グラフ
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