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劇作・演出家 柴田侑宏(しばた・ゆきひろ) |
幼少から歌舞伎や大衆演劇に親しみ、芝居の仕事を志していた学生時代、宝塚歌劇団がテレビ用シナリオを募集していた。書きためていた作品を応募した結果、宝塚の演出部に採用したいと連絡がくる。
「兄が監督で映画やテレビ、新劇には興味があったが、宝塚は見たことがなかったんです。実は民放テレビがスタートしたころで、いろいろなメディアに触覚も働いていた。宝塚は男役の存在が一番問題で、自分がやる世界なのかとも考えたけれど、芝居の仕事で給料をもらえるというのでお願いしました」という。
昭和33年3月、入団。3年目で早くもバウホール作品を手がける。
「自分の作品を見てもらえるという“蜜(みつ)の味”というか、ナイーブでクリエーティブな喜びを知ってしまった。それに古今東西の題材をこなせるのは宝塚だけ。同期に作曲家の寺田瀧雄(たきお)という朋友がいて、いい仲間に出会えたのも大きい。恵まれた時代でした」と振り返る。
宙(そら)組「白昼の稲妻」(関連記事:東京公演始まる)の主人公、アルベールは劇作家志望の青年だ。作者本人に重なる。
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「白昼の稲妻」の和央ようか(奥)と花總まり |
「自分の演劇への思いが出てしまう。劇作家を出したら終わりだなと思っていたから、恥ずかしいですよ」と照れる。
視力をなくし、平成10年の「黒い瞳」から演出を後輩に委ねるようになった。「白昼の稲妻」は若手の荻田浩一が演出。
「宝塚の舞台は本来、作と演出を分離しにくい仕事。自分が演出するのではない台本を書かなくてはいけない。ミュージカルナンバーの作りかた、構成の変更も演出家の仕事。当初はかなり苦しかった」
演出の意向でせりふをカットされることもある。しかし、せりふの重要性にはこだわり続けるという。
「『芝居はせりふ、せりふは言葉』です。劇作家は言葉を磨くことに執念を燃やすべき。“人間”が息づく舞台のために、せりふは本当に大事。そこに人間がいるんだという物語を、男役の美学とともに書くのが死ぬまでの私の命題です」
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