実力派の星組トップ・コンビ、香寿たつき、渚あきのサヨナラ公演になる宝塚大劇場。ほかに6人の退団者もあり、にぎわいの中に一抹の寂しさもただよう。2作品ともラストステージを意識した手だれの作りで、各人の見せ場を設けて盛り上げている。
「ガラスの風景」(柴田侑宏作、謝珠栄演出・振付)は、1960年代の夏にイタリア北部の避暑地、コモ湖畔で展開するサスペンス・ロマン。シモンズ家の別荘開きのパーティーの最中に殺人事件が起きる。担当のミラー警部(安蘭けい)の調べでは、被害者は別荘地の住人たちを脅迫していたらしい。この事件がきっかけで、新しい住人のアメリカ人貿易商ジョーイ(香寿)とシモンズ家の長女ローラ(渚)は出会い、恋に落ちる…。
殺人事件が伏線になっているけれど、作品のテーマはよみがえる青春の輝き、といえるだろうか。お互いに過去を背負った30代の男女が、運命的な恋によって人生の岐路に立ち、現在を清算して再び若き日の夢に向かって歩みはじめる姿を、香寿と渚は細やかな情感あふれる演技で見せる。
ほかにクレマン教授夫妻(初風緑=専科、秋園美緒)の複雑な愛憎や、青春真っただ中の若者たち(夢輝のあ、朝澄けい、真飛聖ほか)をからめて、テンポよく物語が進行。専科の鈴鹿照、未沙のえるの凸凹姉妹がいい味つけだ。
サスペンスとしては辻褄の合わない点もあるが、舞台の真ん中で水が循環している天使の噴水の装置、回り舞台を巧妙に使った人物の出入り、ノスタルジーを誘うカンツォーネの音楽などが効果的。
「バビロン−浮遊する摩天楼−」(荻田浩一作・演出)は、古代に栄えた都バビロンの幻影をイメージしたレビュー。1組の男女(香寿、渚)が、時代や空間を超えて不思議な世界に次々に流されていく。
歌唱巧者ぞろいの星組に専科の矢代鴻が加わり、♪うたかたの夢…月影の蜃気楼…と歌う主題歌は、現実のさまざまな想いが交錯してひときわ心に響いた。
24日まで。