雪屋のロッスさん いしいしんじ メディアファクトリー 1,155円

雪屋のロッスさん、大泥棒の前田さん、似顔絵描きのローばあさん、サラリーマンの斉藤さん…。「麦ふみクーツェ」で坪田譲治文学賞を受賞した作家が、さまざな職業の人々を描く掌編集。
独特の世界観をもつこの作家が描く物語は、もちろん一筋縄では理解できない。泣いていいのか、笑っていいのか。それすら分からないときもある。寓話だと考えて意味をくみ取ろうとするからいけないのか。
やがて短い紙数の中に、さまざまな立場の人の営みがあることに気づく。それは、寓話ではなく、むしろ現実社会を、ただ、寓話的な表現に包んで提示しているだけだといったほうが適切かもしれない。「麦ふみクーツェ」もそうだったが、登場人物たちのうえに悲しみはノックもなく訪れる。
読み進めると、ふと、どの主人公たちにも共通するのは、“献身”とか“無私”なのではないかなどと思いつく。そこに意味などはない。あるのは行為だけ。だから、物語の裏に寓話的な意味をくみ取ろうとするよりも、ストレートに感じるままに読むのがいいのかもしれない。
読んだ人たちがどう受け取るか。とても気になる。その意味ではまるで音楽のような小説だ。