||妖怪だらけの現実社会
今回のジーグが怪物っぽい相手を倒すことを「妖怪退治」と永井は表現するが、絵空事のみでいっているわけではない。
「今の社会は危険がいっぱいで、実際に化け物みたいな犯罪者がいるわけです。悪役はそういうものの象徴です」
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「SFも現代物も、まだまだ、かいていきたいですね。西部劇もやりたいのだけど日本じゃだめな(受けない)んですよね。実はいちばん最初にかいた漫画が西部劇だったんですよ」 |
永井漫画は、ある意味常に社会と接点をもち続けているといえる。そもそも1968(昭和43)年の初の連載漫画「ハレンチ学園」は、題名どおりのハレンチな内容が物議を醸し世間から激しく糾弾された。これを受けて漫画の内容はさらにエスカレートしたわけだが。
ハレンチであったり残酷であったりする永井漫画は、社会を映す鏡のような存在だった。そして21世紀の日本の社会は、永井漫画に追いついてしまったというような混沌(こんとん)さを呈している。
永井自身は「僕には未来を幻視するようなところがありましたから、現在のような社会を予測していんじゃないかな」とつぶやく。
「『ハレンチ学園』連載当時は、教職者がハレンチであるはずがないと、僕は怒られたわけですが、いまじゃ校長先生に至るまでハレンチ事件を起こしています。まあ、実際には昔からあったけれど隠されていたのかもしれない。ともかく教職者は神聖視されていて、僕はそれをひっくり返しちゃった。だけどセンセイだって同じ人間。よいセンセイもいれば悪いセンセイもいる。職業で見るのではなく、人間ととして見なくてはいけないんです」
また、「デビルマン」に象徴される残酷場面については「残酷な現実は世界のいたるところにあるわけで、物語を通じて、若い人たちに、そういう痛みを知ってほしい」と続ける。
||マジンガーZのリメークも
そんな永井も、このところ漫画のほうは、時代劇に熱中しているように見える。そもそも白土三平の影響で時代劇はデビュー前からかきたかったジャンルだったという。「漫画を読む年齢層が高くなっており、時代劇も需要はあります」と話す。
しかし、このまま時代劇だけをかいていくつもりもない。「もう週刊誌の連載は日程的につらくなってきました」というものの、創作意欲は衰えず、夏には大地震後の荒廃した暴力が渦巻く混沌とした世界を描く「バイオレンスジャック」(1973年初出)を再開するつもりだという。

ロボットものも、ジーグ以外のリメークを挑戦したいという。
「最近の作品は複雑な人間関係を設定したりするのが傾向ですが、もっとストレートなおもしろさがあっていい。その点では僕のロボットは、いまどきのほかの作品よりおもしろい」
実際にいくつもの仕事の話は舞い込んできているという。
「『マジンガーZ』については、絶えずリメークの話があり、あっては消えるという状態が続いています。海外から『UFOロボ グレンダイザー』を作り直してほしいという依頼もあります。今回のジーグなんかし欧州では人気が高いですしね。ですから、今回のジーグが成功すれば状況がまた動き出すのではないでしょうか」
テレビでのアニメ放送のほか永井漫画が100作も翻訳されいるというイタリアに招かれており、ローマ大学などで漫画についての講義を行うという。
もちろんロボット漫画の第一人者として広く認知されているが、「『デビルマン』も翻訳されていますし、エッチな作品も若干は出ているんですよ」。ハレンチとも残酷ともまるで無縁な、柔和な声と温和な話しぶりに似合う穏やかな表情で照れ笑いをした。
text & photo by ENAK編集長