絵画に例えるなら、油彩と水彩の違い。池田理代子原作『ベルサイユのばら』の劇世界は宝塚の演劇形態の根幹を示すもので、どの角度から採り上げても際立つ相違点は生まれない。初演、再演、今回のシリーズとその都度、新曲や新場面が挿入されたり、セリフや衣装を変えたりの工夫はなされているが、舞台上に表れる特色はずばり、主演スターの特質と組体質から漂う表現法の違いだけだ。
星組は芝居巧者揃いでアダルト風味。夢の名残を留めつつリアリティーを重視した見栄えとなり、宙組は歌唱力を生かした軽やかな展開。自然さを失わぬ配慮の上でスターの特色を思い切り、美世界に泳がせた。
それは、星組が「オスカルとアンドレ編」で宙組が「フェルゼンとマリー・アントワネット編」であったことにもよる。「ベルばら」の世界は、アントワネットとフェルゼン、オスカルの愛の三角関係が基本軸で、アンドレはいわば、三銃士でのダルタニアン的存在。庶民アンドレと貴族オスカルの恋を中心とすれば、必然的に革命のさなかの現実味強い作りとなる。
一方、三人の恋は、王妃と貴族同士の許されぬ愛と秘められた愛で宮廷中心となるから、フェアリー調が増すことになる。しかし、星組はラストで銀河の馬車で結ばれるオスカルとアンドレを出して、夢の物語の美しさを再確認させ、宙組では美し過ぎた展開を最後にアントワネットの断頭台の場で締めて社会性をにおわせる。どちらも、メルヘン構成の中で人間の愛と死の甘さと厳しさを謳(うた)っている。そこに、この物語の不滅性がある。
星組の稔幸オスカルと星奈優里アントワネットは、愛のシーンより厳しい運命を前にした場で役者魂を美しく発揮したのが特色で、現在公演中の宙組では、和央ようかフェルゼンの「愛の面影」の歌唱の素晴らしさと花總まりアントワネットの刻々変わる美表現の強弱が印象的である。
石井啓夫@演劇コラムニスト
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 | ベルサイユ宮殿の運河に浮かべた船で、互いの愛を確かめあうフェルゼン(和央ようか)とアントワネット(花まり)=宙組「フェルゼンとマリー・アントワネット編」 |
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 | アンドレ(水夏希)の愛を受け入れるオスカル(彩輝直)。独特の様式美も『ベルばら』の魅力の一つ。今回はオスカルとアンドレを彩輝と水が役替わり(24日から交替)で演じるのも話題だ。 |
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 | 星組の『オスカルとアンドレ編』。稔幸(左)と香寿たつき=星組「オスカルとアンドレ編」 |  | 宙組 ベルサイユのばら2001 −フェルゼンとマリー・アントワネット編 |  | 和央ようか、花總まり、彩輝直、水夏希ほか。 8月12日まで東京・日比谷の東京宝塚劇場。 問い合わせはTEL03・5251・2001 |  |  | 星組 ベルサイユのばら2001 −アンドレとオスカル編 |  | 稔幸、星奈優里、香寿たつきほか。 8月17日−10月1日 兵庫・宝塚の宝塚大劇場。 問い合わせはTEL0797・85・6770 |  |
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