宝塚というものがよく分からないまま受験し入学してしまった私には、すべてが海の波のようでした。一見穏やかそうな美しい海も、入ってみると波があって、でもその波にも魅力があって波乗りの楽しさを覚え、そしていつしかビッグウエーブにチャレンジするサーファーといったところでしょうか。
正直、何度もやめてしまおうと考えました。一番の理由は、丸顔の男役という自分が許せなかったからかな。ははははっ。
でも、公演をするごとに舞台の魅力にとりつかれていく自分を認識するようになりました。
宝塚受験に失敗したらニューヨークへダンス留学したいと思っていた私にとって、ニューヨーク公演に参加できたことはある種の達成感があって幸せでした。
その直後、平成の「ベルサイユのばら」東京公演に出演して、宝塚オンチの私はベルばらに乗り遅れ、退団を真剣に考えたのでした。
しかし、次作の「メイフラワー」で、新人公演の主役をいただき、青天のへきれき。
「アポロンの迷宮」「恋人たちの肖像」「紫禁城の落日」と新人公演を卒業するまでの間に、自分が舞台に立つことに責任感を持ち、多くの人々に支えられて成り立っていることを実感し、感謝できるようになりました。
思い出の作品といって挙げだしたら、すべての作品について語るようになってしまうけど、どの作品にも新しい発見、新しい出会い、新しい経験があり、大切な思い出です。
宝塚に入って、とくに大きな目的もなく、ただ波に乗っていた私が、組のトップとしていまここに存在できることは不思議な気がします。しかし、確かなことはいま、私がここにいるのは、ここで出会えた人がいてくださったからこそです。一人でも欠けていたら違った道だったでしょう。
いま、こうして宝塚が大好きになって、大好きな星組の中で、充実した楽しい日々の中で卒業できる私は本当に、本当に、本当に幸せものです。皆様への感謝を、十月一日までの舞台でお返しできることを願っています。