小説「阪急電車」の舞台を歩く
恋の始発は宝塚駅!
2008/4/4
産経新聞大阪夕刊
ということで、最初の目的地は宝塚中央図書館だ。今津線からは離れているが、地図で見ると直線距離で800メートルほど。住宅街を縫って歩いたものの、さしたる目印もなく道に迷った。自宅前で車から降りてきた男性に行き方を尋ね、ようやくたどり着くと、何と阪急宝塚線清荒神(きよしこうじん)駅の真ん前。思わず「なんだよ」と、分かりにくい地図に怒りをぶつけた。
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宝塚大劇場 |
気をとり直して宝塚駅に戻り、武庫川をまたぐ橋から宝塚大劇場を写真に収めた。宝塚温泉を通過する坂越えをクリアし宝塚南口駅方面へ。結婚披露宴での修羅場が描かれた同駅の物語で、『このホテルの会場係はレベルが高い』と称賛されている宝塚ホテルの角を右折し、次の逆瀬川駅に向けてルートを線路沿いに変えた。
『あそこはいい駅だから』と書かれた小林(おばやし)駅が気になっていた。小説では、ツバメの糞(ふん)受け用のビニール傘が逆さにつられた駅前のスーパーが描かれている。人とツバメへの優しい配慮に、登場人物が『いつかこの辺に住んでもいいな』と思う町。架空の設定と思いながらも、「ひょっとしたら」と思う気持ちもあった。
ところが注意しながら進んだつもりが、知らないうちに行き過ぎてしまっていた。気づくと近くの団地に「仁川(にがわ)」の文字。阪神競馬場で知られる地名だ。戻ろうかとも考えたが、途中からパラつき始めた雨が気になり、そのまま進んだ。
長い直線が続く。競馬場のゴール前ではなく、競馬場西側の県道。正門を目指して歩いたが、なかなか行き着かない。「競走馬もこんな気持ちか」と思いながら、くじけそうな心にムチを入れた。そういえば、本には、電車内で恋人とけんかして『馬でも買(こ)うとったほうがマシや』と、仁川駅で降りてしまう身勝手な男が登場する。
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