ENAK 流行+芸能 ENAK6月号
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エメラルドの大地 アイルランド北部を訪ねて
(4)禁煙の国
マリー怒る
グローブ庭の花々が客人を迎えてくれる。朝にはすっかり笑顔の女主人、マリー・スゥイーニー
朝になったらマリーの機嫌は直っていた。マリー・スゥイーニーは宿泊先のマナーハウス「キャッスル・グローブ・カウンティ・ハウス(Castle Grove County House)」の女主人だ。

チェックインの際、「部屋は喫煙、禁煙に分かれているのですか?」と尋ねたことが、マリーのご機嫌を斜めにしてしまった。

「アイルランドでは、屋内での喫煙は一切、禁じられております。室内での禁煙は罰金(最高3000ユーロ=約40万円)が課せられます」

マリーは毅然として、そう言い放った。

アイルランドは3月29日午前零時(現地時間)からパブ、職場など人が集まる屋内での喫煙を全面的に禁止した。米ニューヨーク市などでも実施されているが、全国一律の禁煙法は先進国では例がない。厳格な女主人にすれば、とんでもない質問だったというわけだ。

ドネゴール 禁煙反対の事情
ポール・ダイバー氏
だが、前日まで宿泊していたドネゴールのホテル「ザ・サンドハウス・ホテル」では、パブやレストランは禁煙だったが、喫煙可能の宿泊部屋はまだ用意していた。

「私は法律には反対の立場です。ホテルはサービス業。ビジネスとしてのホスピタリティーを満たすためには、客に『ノー』とは言いたくはないのです」

同ホテルの総支配人のポール・ダイバーは、禁煙法施行後の営業について、そう話始めた。

「私のホテルを利用するのは、旅行者だけではありません。地域住民も(ホテル内の)パブに足を運んでくれます。葉巻を楽しむ年輩の方も少なくありません。まさか寒い夜に『外で吸っていただけませんか?』とはいえませんでしょ?」

「ザ・サンドハウス・ホテル」の正面玄関。左に見える2本の外灯が立つ空間を禁煙バルコニーに改築する
それでもパブはもう禁煙。ただ、客との間のトラブルは予想よりも少なく、法律は広く浸透しているようだとポール。

「でも、ドネゴールでパブを経営する知人は売上げが20%も落ち込んだと頭を抱えていましたね。私どもの宿泊に関しても施行前の稼働率は月平均65%だったのが、施行後の4月、5月はそれぞれ5%、落ち込みました」

他のEU諸国はモデルケースとしてアイルランドに注目しているのではないかと水を向けると、ポールは皮肉とも冗談ともつかない笑い声をあげた。

「パリで試験的に実施した時は失敗でしたよね。ただ、ドネゴールは地理的な理由から、いっそう反発が強いのですよ。というのもここから車で30分も走れば北アイルランド(英国領)です。それなら宿泊は喫煙のできる北アイルランドで、という選択もできるわけですよね。ドネゴールとしては北アイルランドも禁煙にしてもらわなければ、おさまりがつかないわけですよ」

同ホテルは先月24日から、5,000ユーロ(60万円)をかけて入り口横の飾り間を喫煙スペースに改装した。風よけのついたテラスで、これが屋外なのか屋内か−−の論争には、今のところなっていないが、苦肉の策には違いない。

ダブリンの多くの飲食店で、喫煙客のため灰皿(手前、窓枠左の薄型の箱)が入り口に見られた
確かに、ダブリンでは飲食店の店先でたばこを吸っている客の姿が目立った。施行後から店は入り口付近に灰皿を設置した。景観を損なわないような地味な色で薄型のものが多いが、非喫煙者にしてみれば、街の雰囲気も施行前とは印象が変わったようである。

ダブリン在住の非喫煙者の女性(33)は、もし施行前に店先でケンカが起きれば、店主が間違いなく警察へ通報していたのに、施行後、店先にたむろする喫煙者が口論となっても通報しないのはおかしいと首をかしげる。

店主にしてみれば、口論するものがその店の客である可能性も高く、店のイメージを損う恐れもある。さらには、喫煙を法的な措置に及ぶ行為だとはとらえたくはないパブ文明国の反抗心でもあるのかもしれない。

くつろぎのマナーハウス
マリーに話を戻そう。結論からいえば、2番目の宿泊施設に当たるこの「キャッスル・グローブ・カウンティ・ハウス」が、今回の旅で、最も居心地がよかった。

キャッスル・グローブ・カウンティ・ハウス

マリーは「ウッドヒル・ハウス」のナンシー同様、売りに出されていた名家の邸宅を80年代に、約7,000万円で購入した。1656年に建てられたこの邸宅は、門から玄関まで車が必要なほど広大な敷地だ。南向きに面した庭は、当時の著名な建築士、ラーンスロット卿が手がけた。玄関ホールに飾られた花々は、庭で育てているものだそうだ。応接間からはスゥイリー湾(Lough Swilly)が一望できる。

当初の購入目的は、牧畜ビジネスだったそうだが、ヨーロッパ連合の発足で1軒あたりの家畜保有数が制限されたため、12年前からマナーハウスの運営に切り替えた。

部屋のクローゼットを開けると、棚に「セーター」「スカーフ」「グラブ(手袋)」と書かれたメモが貼られていた。使い手の愛着が伝わる
そのせいか、マリー一家の生活感がそこはかとなく漂い、ビジネスでのもてなしとはひと味違う温かさが伝わってくる。たとえば夕食の席に向かおうとすれば、部屋を出て廊下を渡ってから、まず壁面一面が本棚の書斎に着く。そこを抜けてリビングに入り、マリーと娘のエリンがテレビを見ている横を通過し、さらには玄関ホールを横切り、応接室を2つ越えてようやくダイニングルームにたどり着く。

ダイニングルームは舞踏会が開けるほど広いスペースだが、テーブルの数が少ないので、宿泊客全員の顔が見渡せ、なごやかな雰囲気にあふれる。

朝もいい。午前5時。マリーは、背丈の倍はありそうな窓をひとつひとつ開けていく。そして宿泊客の朝食の準備に取りかかる。玄関ホールでエリンに出くわした。「今から娘を学校に送らなくては」と足早に去っていった。

(Ryoko KUBO/久保亮子)

***第5回は、レンタカーを楽しむ 〜ダブリンから「タラの丘」まで〜を紹介します。14日(月)掲載予定です。

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■WHERE TO STAY 泊まる
Castle Grove Country House Hotel (レタケニー)
http://www.castlegrove.com
+353-74-51118(Tel)
+353-74-51384 (Fax)

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[1]スライゴ 女神のブレスト
[2]ドネゴール 海の幸 自慢の一杯
[3]ドネゴール エンヤの故郷
[4]レタケニー 禁煙の国にて
[5]ダブリン タラの丘
[6]英リバプール ビートルズの故郷

ジャイアンツ・コーズウェイ 北アイルランド・ポートラッシュ(Portrush)の町から10キロほど離れたノース海峡に「ジャイアンツ・コーズウェイ(Giants Causeway)」はある。六角形の岩柱が海岸沿いに無数に立ち並ぶ、ミステリアスな地形。「大男の土手道」を意味するなど、古代ケルトの神話がいくつも残る場所だ。世界遺産に登録されており、英国の特別自然保護区でもある。六角形の誕生は、火山活動が活発な6000万年前にさかのぼる。噴火で流れ出した溶岩が急速に冷えて形成される「柱状節理」の現象だ。観光案内所が入り口にあり、そこから海岸行きのバスが15分おきに出ている。遊歩道も整備されているので、片道30分ほどの岸壁を歩きながら訪れるのも気持ちがいい。ゴロンと転がる岩は「巨人のブーツ」と呼ばれ、「巨人のパイプオルガン」は、30メートルはある岩柱が数本、並んでいる。想像力が豊かなケルト民族らしいネーミングだ。


グリアノン・オブ・アリック 紀元前170年に完成したストーン・サークル。ケルト時代は墓として使用されていたそうだ。スゥイリー湾を眺める丘に、石の壁が円形状に中心を囲んで建つ。イタリア・ローマのコロシアムを想像したが、サイズは直径が10メートルと、ずっと小さい。5世紀から12世紀までこの地を統治したオニール一族が要塞として利用。石の壁の内側を居住地とした城にまで発展した時代もあったというから“使い勝手”のいい遺跡もあったもんだ。もちろん、現在は文化財として保護されている。石の壁の幅も広く、内部に隠し廊下が通されている。かがめば大人が通れる入り口が、円周に沿って3つ確認できた。入ると、真っ暗だが中腰で歩けるほどの高さがあり、広い。ここから外敵を見張っていたのだという。

取材協力
●アイルランド政府観光庁
アイルランド政府観光庁


●ヴァージン・アトランティック航空


●bmi航空

機材協力
●ペンタックス
ペンタックス