「宝塚歌劇のみなさんはホントにすばらしい。今回の来日は驚きと感動の連続でした」とマイヤ・プリセツカヤ。“世界のプリマ”といわれるロシアの名バレリーナが、宝塚大劇場で上演中の星組公演「王家に捧ぐ歌」で、初めてミュージカルの振付を担当した。感想を聞くと、ほめ言葉ばかりが返ってきた。
マイヤはボリショイバレエ団のソリストとして活躍したスターバレリーナ。「瀕死の白鳥」の芸術的な踊りで知られるが、常に新しいバレエに挑戦し続け、前衛的なモーリス・ベジャール振付の作品でも成功。近年は後進の育成にも力を注いでいる。
宝塚歌劇ではこれまでも大作や記念作などの折に、パディ・ストーンやトミー・チューンら海外から高名な振付家を招いて成果をあげてきたが、ロシアからはマイヤが初めて。来日は今回で33回目になるという日本びいきのマイヤだが、宝塚歌劇は見たことがなく、「思わぬオファーがあっておもしろそう」と引き受けたという。
先月末に宝塚入りして、すぐに花組公演「野風の笛」「レヴュー誕生!」を観劇。宝塚歌劇の印象を、「とても高い水準を持った劇団で、女性が男性を演じていても全く違和感はなかった。むしろファンタスティックで、言葉がわからなくても涙が出るほど感動した」と語った。
「王家に捧ぐ歌」は、オペラで有名な「アイーダ」をベースに、新たな脚本・演出(木村信司)と音楽(甲斐正人)で製作した宝塚版ミュージカル。1本立ての大作で、新しいトップ・コンビの湖月わたる、檀れいのお披露目公演でもある。
マイヤの振付場面は、第一幕九場「凱旋(メンフィスの門)」で物語のハイライトとなる勇壮な凱旋シーンと、第二幕のフィナーレで湖月と檀が踊るしなやかなデュエットダンスの2カ所。パートナーのワレリー・コフトン(キエフ・クラシックバレエ団総監督)とともに指導にあたった。
凱旋シーンはエチオピア軍に勝利したエジプト軍の兵士たち約50人が槍や弓を持ち、さまざまなフォーメーションで行進する。「エジプト的な表現を意識して」「バレエではないので兵士たちはかかとから歩くように」などと細かくアドバイス。「舞台の幅が思っていたより狭かったので、稽古のときとは変えて花道を全部使って兵士たちを配置しました。大変、美しくなって満足しています」と上機嫌だった。
「宝塚はスペシャリストの集団だと認識した。俳優さんたちは注意したことをすぐに直すことができて、とても理解力がある。とくにわたる(主演のエジプトの将軍ラダメス役)は瞬間で反応してくれて、すばらしい。ファラオ(エジプトの王=箙かおる)やアモナスロ(エチオピアの王=一樹千尋)は本当の男性と思ったぐらい、みんな役になりきっている」と印象を語るマイヤ。
さらに、「セットも衣装も華麗で趣味がいいし、音響なども含めて、みなさんが真剣に、責任をもって仕事をしている」「私はいつもきびしく言うほうですが、今回は特別で本当に心をつかまれました。大変幸せで私からありがとうと言いたい」と能弁に話した。
70代とは思えない鍛え上げたスリムなスタイルは、じつに若々しい。1日だけの休日は奈良を楽しんだそうで、「東大寺の大仏と鹿がたくさんいたことに驚いた」とか。初日と2日目の舞台を見て最終チェックし、13日に帰国した。
星組公演は8月18日まで。東京宝塚劇場公演は9月19日−11月3日。
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