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植木等伝説
(2)ギターさらりとスターダスト
4月29日(日)朝刊
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「さよならの会」で祭壇中央に飾られた愛用のピックギター(撮影・今井正人)
「さよならの会」で祭壇中央に飾られた愛用のピックギター(撮影・今井正人)
東京・青山葬儀所で27日に行われた植木等の「さよならの会」は、稲垣次郎(73)のテナーサックスによる「スターダスト」で始まった。ホーギー・カーマイケルの作曲による美しいメロディーは、往年の人気番組「シャボン玉ホリデー」のエンディング曲でもあった。

フランキー堺のシティスリッカーズで植木と席を並べたこともある稲垣は会場で、「植木さんは当時から格好よかったですよ。ギターもスマートだったけど、日本の男性でスターダストをあれだけうまく歌った人はいない。きょうは植木さんが好きだった曲を、といわれ、この歌を選びました」と話した。平成5年にハナ肇が亡くなった際にも、臨終の病室でザ・ピーナッツがこの曲を歌ったという。

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クレージーのメンバーは皆、一流のバンドマンだった。ハナは日本ジャズ界の草分け、南里文雄率いるホットペッパーズのドラマーだった。渡米する秋吉敏子(77)に代わってゲイスターズでピアノを弾いたのは桜井センリ(77)だった。シャープス&フラッツでも活躍した谷啓(75)はクレージー参加前の昭和30年、スイングジャーナル誌の人気投票でトロンボーン部門の4位に選ばれた。34−45年の間に、谷は10回もベスト5入りしている。同誌の人気投票では、植木も40年のギター部門で5位にランクされた。

三重県宮川村(当時)の山間の寺の三男として生まれた植木は援農学徒として働いていた北海道で終戦を迎え、25年に東洋大学を卒業した。在学中からディック・ミネにあこがれて歌手を志し、22年にはNHKラジオで服部良一の「ビロードの月」を歌った。

同じ年、バンドボーイとして入った刀根勝美楽団で「ギター持って席にいるだけでいい」と座らされたのがギタリストとしての始まり。ここでドラムの見習いをしていたのが、3歳年下のハナだった。そのうち「座っているだけでは申し訳ない」と教則本を買い、我流で運指を覚え、譜面を読みあさった。

2つのバンドを経て26年、萩原哲晶のデューク・オクテッドに参加する。数十人のオーデションに落ちたなかには後の「前衛の奇才」高柳昌行もいたというから、植木の腕前は相当のものだったのだろう。萩原は植木を選んだ理由を「譜面が読めたから」と話したという。このバンドでまた、ハナと一緒になった。

ハナは30年、クレージーの前身キューバンキャッツを結成。横浜モキャンボでのトリオやシティスリッカーズを経て植木も32年にクレージーに加わる。そして36年、植木をスターダムに押し上げた「スーダラ節」を作曲したのが萩原だった。

「あの歌で人生が決まっちゃったんだものね。初めは何とかして逃げようとしたのよ。でもあの歌はいろんなことを教えてくれました。お前は決して二枚目じゃないと烙印(らくいん)押されたのもあれ。やりたいこととやらなきゃならないことは別だと教えられたのもあれ」(62年1月、夕刊フジのインタビュー)

コメディアンへの道を決定づけたのがかつてのジャズ仲間だったのは、皮肉といえるのかもしれない。それでもクレージーはジャズバンドであり続けた。歌姫、松任谷由実(53)は「クレージーの笑いの原点は高い音楽的技術に裏打ちされた楽曲の綿密な仕掛け」と話した。ジャズ評論家の瀬川昌久は「ジャズの持つ熱っぽさ、洒脱(しゃだつ)な明るさがクレージーの特長だった。その後のロカビリーから生まれたのがドリフターズ。2つのグループは、元となる精神が違う」と解説した。

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谷は後年、安田伸らと「スーパーマーケット」を結成してジャズと付き合い続けた。ハナも晩年、稲垣らと「オーバー・ザ・レインボー」を組んだ。植木はジャズもギターも忘れてしまったかにみえた。

「ギターマガジン」(リットーミュージック)編集長の野口広之は平成7年、「植木等とこの1本」と題するインタビューを行った。萩原のバンドで高柳らを尻目にオーディションに受かったエピソードなどは、このときの野口の取材による。

インタビューの場に現れた植木は、やおらギターケースを開けて愛器のギブソンを取り出し、シングルトーンで弾き出した。楽器のメンテナンスも完璧。こなれた運指でさらりと4小節。見事に弾いてみせたのは「スターダスト」のメロディーだった。そのギブソンは、さよならの会で祭壇の中央に飾られた。(敬称略)
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