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菊地成孔とベベ・トルメンド・アスカラール「野生の思考」
ジャズの原点に通じる官能
イーストワークス EWCD 0117 ¥3,150
Jポップの発達に少し遅れて、ピアニスト、大西順子の先導で日本人によるジャズの世界が独特に発展し、上原ひろみ(ピアノ)や山中千尋(同)らが登場する現在に至っているのだけど、菊地成孔はそういう流れとは少し異質なところから出てきたサックス奏者で、実際異質な人気と才能を誇る存在になっている。

異質さのひとつは幅の広さだ。山下洋輔トリオにいたことがあるからということ以上に、映画「大停電の夜に」のサウンドトラックやUAとの「cure jazz」など彼が手がける音楽、あるいは執筆から東大での講義など、菊地の活動の幅の広さから想起されるのは、山下や坂田明ら1960年代の日本人ジャズメンらの姿であり、米国の音楽学校でジャズを吸収し日本にそれを持ち帰って拡散させている一群とは立っている場所が異なるのだ。

産経新聞のインタビューによると、「エロスがジャズのエネルギーだ」が持論。この作品は、まさにその言葉どおりの仕上がりになっている。

CDのブックレットで本人が書いている文章によれば、ベベ・トルメンド・アスカラールはツアー用に組まれたバンドで、バンドネオンや弦楽四重奏団により構成されている。なるほど官能を奏でるにはうってつけの編成だ。

バンドネオンが入っていることで南米的な官能、たとえば三島賞作家の星野智幸の作品世界が放つ、熟れすぎた果実のやがて悪臭に変わるであろう芳香を感じる−−といったら単純すぎるだろうか。

古いジャズファンにしか分からない言い方が許されるのなら、その本質はデューク・エリントンやエリントンに心酔したチャールズ・ミンガスのジャズに通じている−−というのが個人的な感想だ。

いわゆるジャズを遠く離れた見せ方をしながらも、中身はエリントンの世界に回帰する本質的なジャズ。このあたりが知能犯的な菊地という音楽家の異質さの本領発揮であり、注目を集めるゆえんだろうと考えるのだが。 (ENAK編集長)

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