全体に薄い皮膜をかぶせたような、独特の音世界。これがヴァン・ゲルダーの音作りの特徴だ。ある意味楽器の音そのままではない。そのことを嫌う意見もあるようだが、僕はこのハンコックの作品についていえば、ヴァン・ゲルダーの特徴は苦いコーヒーに浮かべたミルクのような役割を果たしていると考えている。
録音当時マイルス・デイビスのバンドに在籍し、飛ぶ鳥を落とす勢いの20代だったハンコック。新しい音楽をどんどん吸収していた。先鋭的な部分もある。
同世代のトランペット奏者、ハバードはハンコックのそんな意をくんで、また自身もどんよくに新しい空気を吸いまくっていたので、バリバリと吹く。
ヴァン・ゲルダー・サウンドで包まれなかったら、あるいはここにあるハンコックの音楽は、鋭利すぎて聞こえたかもしれない。
ヴァン・ゲルダー独自の温かみのある音作りは、前衛的な手法を交えるこの作品から、みずみずしさだけをろ過し、すくいとっている。
若さ特有の荒々しさ、あるいはほこりっぽさ、汗臭さなんかを巧みに遠くへおいやり、純粋な感性の輝きだけを聴き手に提示してみせているとでもいおうか。
「処女航海」(65年)「スピーク・ライク・ア・チャイルド」(68年)と、この作品の後にハンコックがブルーノートから出す作品も同様。
僕などは、これらのの作品を聴くと観念としての「青春」を思い出す。
それもこれも、ヴァン・ゲルダー・サウンドゆえなのだ。
ただ、この作品はジャズ初心者にはちょっと難しいかもしれない。なるほど東芝EMIが顔に選んだ「スイング・スワング・スインギン」のほうが、広い聴き手に勧めやすいか。
もっともワンホーン作品なら僕はハンク・モブレーの「ソウル・ステーション」(9月26日発売予定)のほうが好きなんだけれど。(ENAK編集長)
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