悪女について 有吉佐和子 新潮文庫 629円

私を知る27人の人間から私を知らない者に私について語らせたら、果たして私を知らない者はどんな私を創造するのだろうか−。こんな興味を小説としてかなえたのがこの作品だ。
読者はまず“のっぺらぼう”の悪女、富小路公子と向き合う。そして彼女を知る家族、幼ななじみ、同僚など27人がそれぞれが各章で、一人称で公子について語る構成。
第1章は公子が通っていた簿記学校のクラスメート、早川松夫の述懐。「あんな心の優しい人を殺す人間があるとも思いませんね。何かの間違いで死んだのでしょう」。読者は“初対面”にして公子が死んだことを知り、公子という人物像のほかに彼女の死のなぞという2つの未知を抱えて読み進めることになる。
公子のことを「鈴木君子だった」と語る知人もいれば、「生涯の愛人だった」という幼なじみ、「あなたが父親よ」と“キミコ”に言われた男たち…。
公子の座標には“27人の点”が散在する。そこから共通する事実をすくうおもしろさ。また、公子が男を翻ろうする天性、成功者としてのぼりつめるための計略など、各章は独立した短編としての読みごたえも十分だから、読者それぞれの楽しみ方ができるだろう。
ちなみに私は、公子にだまされた男の章だけを読み返したり、公子のもうけた2児の父親捜し−など、テーマを決めて数回、公子に迫ってみたほどだ。(R)
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