甘い歌声とロマンチックな楽曲群は、秋から冬にかけての季節にぴったり。しっとりとした気分にさせてくれる。
クラシックと軽音楽の境界線を越えて活動する女性歌手の代表がサラ・ブライトマンなら、このこのアンドレア・ボチェッリは男性の旗手ということになるだろうか。
もっともブライトマンが欧州ダンスビートを取り入れて積極的に現代ふうの音作りに挑むのに対し、ボチェッリは弦楽団などなよるオーソドックスな編曲で歌いあげる。その意味でもゆったりとした気分で聴ける。
ボチェッリはイタリア生まれで12歳のときに視力を失うが、ピアノバーでの弾き語りなどをして歌手デビューのチャンスをつかむ。前述のブライトマンがその歌声にほれこんで共演を申し込んでできたのが、大ヒット曲「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」だ。
この新作は古今の有名曲を集め、多彩なゲストを迎えて作られた。
どんな歌を取り上げているかというと「アマポーラ」「ベサメ・ムーチョ」「枯葉」あるいは「好きにならずにいられない」。またスペイン語圏生まれで英訳されて米国でヒットした、たとえば「ソラメンテ・ウナ・ヴェス」(米国では「ユー・ビロング・トゥ・マイ・ハート」)など。
ゲスト陣の顔ぶれはスティービー・ワンダー、ケニーG、クリスティーナ・アギレラ、クリス・ボッティら新旧の人気者たち。日本盤ではアギレラの代わりに夏川りみが歌うバージョンがボーナストラックとして入っている。
要するに、ボチェッリ作品としてはもっとも間口が広く、入門にうってつけの仕上がりになっている。
個人的には冒頭を飾る「アマポーラ」が心地よい。米国の名編曲者、デビッド・フォスターのペンによる弦楽団が奏でるロマンチックな伴奏とボチェッリの柔らかい歌声とが実によくマッチし、
スケールの大きな歌世界を見せてくれる。
「ミ・マンキ」におけるケニー・Gの、いかにも彼らしい甘いサックス(アルトサックス?)の音色は、客演陣の中ではもっともボチェッリの歌声との相性がよいように思うのだが、オブリガートで登場するぐらいなのが残念。
「ソモス・ノビオス〜愛の歌」では若いアギレラがボチェッリ相手に堂々と渡り合う。伴奏の一部にいかにも当節R&B風の味つけがしてあるが、夏川版でもこのカラオケをそのまま使っていて顔を出すのがなんだかおかしい。ややハスキーなアギレラに対し、夏川は少女のような澄んだ美声で魅了する。
「調子はずれの歌」で歌とハーモニカで参加しているスティービーは、さすがの貫禄。ボチェッリの先導で始まるが、スティービーが歌い始めると彼のオリジナル楽曲であるかのように雰囲気を一気に自分の色で染めてしまう。
(ENAK編集長)