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ビートルズ「Love」
大胆かつ繊細な編集で未知の世界に誘う
東芝EMI
<通常盤> TOCP-70200 2,800円(税込)
<スペシャル・エディション(DVDオーディオ盤つき)> TOCP-70201 4,200円(税込)
リミックスという現代的な手法を活用したビートルズの“新作”が20日、世界同時発売された。36年前に解散しているビートルズだが、新しい装いをまとった既知の楽曲は聴き手を未知の世界へと誘う。しかも有名無名を問わず佳曲ばかりのビートルズならではの、26曲78分ノンストップという驚きの構成。

リミックスとは、たとえば古いジャズ作品からドラムとベースのパターンを抜き出したうえでラップを展開するなど、若いDJと呼ばれる人たちが盛んに用いている、換骨奪胎的な編集方法だ。

その手法がもっとも明確に提示されている「ウィズイン・ユー・ウィザウト・ユー」を聴けば、古くからのビートルズファンは“未知の世界”の意味を理解するだろう。歌は「ウィズイン・ユー・ウィザウト・ユー」だが伴奏の骨格は「トゥモロー・ネバー・ノウズ」のドラムとベースのパターンなのだ。

あるいは「ゲット・バック」の導入部には胸が高鳴るだろう。「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」の最終部分のピアノの和音を逆回転させた音が用い去られているのだが、有名なアルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」の締めくくりに配置され、ロック史上もっとも有名な終止部と呼ばれる和音を逆回転させれば、幕切れの反対すなわち開始部分になる。ユニークな発想は大成功だ。

個々の楽曲について魔法のような編集を施したのみならず、アルバム全体をメドレー形式で組曲ふうにまとめあげているところがミソなのだが、そんな大胆なDJの役割を果たしたのは、“5人目のビートル”と呼ばれることもあるビートルズのプロデューサー、サー・ジョージ・マーティンと彼の息子、ジャイルズ・マーティン。

ビートルズを知りつくしている父親と直接関係をもったことがなかったゆえに大胆になれたであろう息子。この父子コンビの、いわばビートルズに対する“温度差”が奏功し、大胆かつ繊細な“変身”を可能にしたのではないか−−と、勝手に推測している(あるいは、父マーティンが大胆な指示を出したのか?)。

いささかやり過ぎ、遊びすぎ−−と感じられる部分がないではないが、そもそもがサーカスとオペラの要素などを融合させた、カナダを本拠地とするシルク・ド・ソレイユの、ビートルズを題材とした舞台のBGMに関連して生まれた企画なので、ある程度の遊びはしかたがないか(ただし、まず音楽ありきで、音楽を視覚化したのがショーだという。つまり、舞台を前提にした制限はなかったようだ)。

あるいは遊びすぎこそがDJミックスの醍醐味だとしたら、この作品はビートルズなんて知らないけれどDJミックスを楽しい、カッコいいと感じる若い聴き手に大いにアピールするだろう。

案外、ジャイルズはそのあたりを計算に入れて過剰演出を施しているのかもしれない。

その意味ではこれはビートルズの新作というよりも、プロデューサーなかんずく主に実務にあたったジャイルズ・マーティンの作品という側面が強いのかもしれない。そういうと旧来のビートルズファンは怒るかもしれないが、そんな作品のありかたは、むしろリミックスもの全盛の現代にふさわしいだろう。結果的にはビートルズ関係の作品は時代を超える−−ことを改めて証明することになるのではないか。

もちろん従来のビートルズファンも興奮を抑えきれないだろう。旧弊に属する僕自身は「抱きしめたい」と「ヘルプ!」に注目した。初期の作品の音質もここまでよくなるのか!

オールドファンは、それまで、この作品を繰り返し聴いて、発表されるかもしれないといわれている既存作品の音質向上盤についてあれこれ想像するのも楽しいだろう。

そうやって繰り返し聴くと、さまざまな発見があるのが、この「Love」のおもしろさでもある。

そういえば、そもそも「こんなところにこんな音が、会話が録音されていたのか」という発見は、既存作品における楽しみでもあった。そういうマニア心をくすぐる演出も、この「Love」は忘れていない。 (ENAK編集長)

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