ハリー・ポッターと謎のプリンス J.K.ローリング作/松岡佑子訳 静山社 上下巻セット 3,800円(税抜き)

もはや知らぬ人のいない大ベストセラーシリーズ。僕もなんだかんだといいながら、結局この上下からなる最新刊も読んでしまった。下巻のほうは夜更かしして一気にだ。
僕は、この独善的で短慮の魔法使いの少年を好きになれないし、あまりにも人−−魔法使いか−−が死にすぎる物語は、子供向けとしてはいかがなものかと思ったりもする。死によって生を教えるというにはあまりにもゲーム感覚的な死、に感じられるからだ。
それでも最新刊を読まずにいられないのは、やはり作者の“うまさ”に見事に操作されているからだろう。あるいは魔法にかかっているのか。
この最新刊は、シリーズ中もっともおもしろい。相変わらずハリー・ポッター少年は独善的だ。死も描かれる。それもポッターにとってとても大切な人が死ぬ。それでも、今回あまりうんざりしなかったのは、ハリーたちが成長し、それに合わせて子供向けの物語という足かせに縛られる必要がなくなりつつあるからかもしれない。
たとえば今回はハリーたちの恋愛関係が、従来より踏み込んで描かれている。女性作家だけに女性が恋をめぐってとる行動の恐ろしさの描写も容赦ない。
なにより今回は提示されたなぞの多くに回答を与えてくれないのが、おもしろさの核になっている。従来は読み切りで完結していたが、今回は最後の7巻までさまざまななぞが持ち越される。終盤に新しいなぞを提示されたりもする。
このあたり映画化に対する作者の配慮は、ひとかけらもない。あるいはこのシリーズは、「スター・ウォーズ」シリーズのような展開になりつつあるといってもいい。
あまりにもなぞが多いから僕などは、ハリーにとって大切な人の死にまで疑問を抱いている。すなわち本当にその人物は亡くなったのか? あるいは亡くなったのは本当にその人物なのか?
ハリーたちの成長とともに、子供向けから一気に大人も楽しめる物語になったこのシリーズ。ここまできたら僕は絶対に7巻を読むだろう。(井)
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