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日本沈没
30年過ぎてもあせぬ衝撃
小松左京 小学館文庫 上下巻 600円(税込)
30年以上前に発表されたこの作品からこれほど衝撃を受けるとは。

再映画化で話題になり文庫版が発売されたことがきっかけとなって手に取った。1973年の初出自には読んでいなかった。僕は少し幼かったし、それにだいたい怖かった。たぶん翌年映画化されたことでその概要を知ったのだと思うが、「日本沈没」は怖かった。五島勉「ノストラダムスの大予言」も73年発表で、こちらも映画になったが、これも怖かった。

なにしろ小学生だったから日本は沈没するし地球は破滅するのだと、かなり真剣に心配した。どっちが先だと怖くないかなどと。

あのころは73年の第四次中東戦争に端を発した第一次石油ショックなどにより世情は不安定で、そんなこともあってかオカルトがブームだった。映画「エクソシスト」も73年公開。

そんなトラウマもあってか、あるいはその後読んだ(読んでしまった)短編「くだんのはは」のあまりの恐ろしさに小松作品を読むことを自らのタブーにしてしまったのか、ともかくここまでこの大作を読まずにきた。

さて、いい歳をになって読んだ「日本沈没」はどうだったかというと、やっぱり怖かったけれど、それ以前に圧倒された。なるほどこれは大作で、しかし単なるスペクタル小説ではない。もちろんオカルトなんかではない。

基本的には、いったい国土を失った民族にはどのようなあり方があるのかという問題を提起しているのだと思う。

したがってここには文明論があり、社会論があり、哲学もある。もちろん、国土が失われる状況に日本列島の沈没を設定しているので科学がある。 要するにすべてがあるのだ。すべてがあるのにエンターテインメントとして見事に成立させかつその文体には文学のかおりも漂う。

小松の巨人ぶりを改めて見せつけられた。そもそも30年が好きでなおこれほど新鮮な衝撃を受けるということは、裏を返せば僕たちの置かれている状況の不安は、この間なんらぬぐいさられていないということなのかもしれない。

若手の谷甲州に執筆させた「日本沈没 第2部」もこのほど出版された。国土を失った日本人のその後を描いているというので、これも読んでみたい。 (井)

これまでに読んだ本
悪女について阿修羅のこどくハリー・ポッター神様からひと言クライマーズ・ハイ
模倣犯容疑者Xの献身雪屋のロッスさんオペレーション・ローズダスト袋小路の男沖でまつ嫌われ松子の一生イッツ・オンリー・トーク




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