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サイモン・シン(青木薫訳)「フェルマーの最終定理」
“真”でしかない定理の強さ
新潮文庫 ¥820(税込み)
数学界で最高の難問と言われたのが「フェルマーの最終定理」だ。17世紀、フランスの数学者、ピエール・ド・フェルマーがメモの余白に書き残した謎(命題)が、その後350年以上も名だたる数学者たちを悩ませ続けた。「nが2より大きい場合、Xn(n乗)+Yn(n乗)=Zn(n乗)を満たす自然数X、Y、Zは存在しない」。1993年、イギリスのプリンストン大学の教授、アンドリュー・ワイルズが7年間の研究の果てついに証明へとこぎつける。が、致命的な欠陥が見つかり、ワイルズはさらに1年を費やし修正。95年、ついに謎に終止符を打つ。

構える必要はない。nが2だった場合においては学生時代に身近な数式のひとつだった、と言われると思い出す人も多いだろう。ピタゴラスの定理だ。直角三角形の直角を挟む2辺のそれぞれの2乗の和は斜辺の2乗という数式に応用された。nが3以上になると途端にこの定理は迷宮入りする。

冒頭、数字の誕生、数式の発見が紀元前6世紀にまでさかのぼって紹介される。たとえば古代エジプト、バビロニアの人々はナイル川の氾濫(はんらん)で消滅する田畑の区画復元のために幾何学(ジオメトリー)を生み出した。ピタゴラスは「宇宙は数によって支配されている」と主張した。この本の魅力はワイルズの苦悩を知ることにあるのではなく、数学の精緻さとその法則による絶対の支配を味わうことにある。

決して崩壊しない定理でしか数学は“真”と認めない。科学の世界との相違も語られる。試行錯誤や新たな発見により更新されていく理論が科学の発見であるが、数学は絶対的に真偽のふるいの上でしか定理が成立しない。この概念に没頭する数学者たちの存在に触れられるだけでも納得の1冊のはずだ。(R)

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フェルマーの最終定理