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桐野夏生「魂萌え!」(上)(下)
母、妻から女へ 社会に居場所を見つける快感
新潮文庫 ¥(税込)
定年を迎えたばかりの夫が急死。専業主婦の妻、敏子は生まれて初めて社会の荒波に直面する。

小さな持ち家とコツコツと貯めた貯金を手に途方に暮れる…ヒマもなく、8年間、音さたもなく米国で暮らしていた息子、彰之が帰国。家を売却し遺産分配しようと迫る。娘の美保は近所で暮らすが、年下の男と同棲し、何を考えているのか分からない。 そんななか夫の携帯が鳴った。10年にもわたる愛人がいたのだ。

悲しみに暮れる間もなく次々と問題が山積し、とうとう敏子はプチ家出を決意。女性限定のカプセルホテルに逃げ込む。が、そこで見たものはタイムスリップしたような世の中と、悲哀に満ちた老女だった…。

伴りょの死は人生で最大のストレスともいわれるが、喪失感はもちろん、取り巻く環境の変化に心がくたびれてしまうのかもしれない。

物語はテンポよく、敏子は地に足がつかないほどうろたえ、その姿を世間知らずなおばさんと自覚するあたり笑いを誘う。そんな敏子を支え、気を紛らわせるのは高校時代の同級生仲間3人。還暦を目前にした女性4人が集まれば、話の身勝手さも相当なもの。

敏子は夫より4つ年下の59歳。いわゆる団塊世代だ。この世代の男女の社会との乖離(かいり)はまさにいま時代を象徴する主題だと思う。

私自身との世代ギャップを楽しみながら読み始めたが、そのうち敏子も恋を楽しみ始めたりして距離感はぐんと縮まり、女性として共感し、奮起する敏子の姿には私自身の未来への覚悟も生まれた。

敏子たちは口をそろえていう。「私たちって中途半端な年頃なのよね」。女性はたくましい。(R)

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